関わるつもりなかったんだけどな。
恋愛フラグ建設しまくる主人公って書いててワクワクo(*゜∀゜*)oする。
文化祭の準備が始まり、僕は虚ろな目をしながらメイドの接客訓練をさせられていた。
気分は地獄に落とされた亡者。
空き教室に集められた僕を含むメイド役達と瀬尾と結託していたオタク。
オタクがどうやら指導者らしかった。
「次、白露君」
「そ、そんなことも、一人でできないなんて、ほ、本当に手のかかるお人形さんですこと…!」
「吃りすぎですな、10回繰り返しよろ」
「うぅー…」
照れから顔を真っ赤にして噛み噛みのチワワみたいなクラスメイトにオタクは容赦がない。
「次、大海原君」
「ソンナコトモヒトリデデキナイナンテ、ホントウニテノカカルオニンギョウサンデスコト」
「はい、棒読みすぎ、感情込めながら5回練習よろ」
顔は綺麗だがやる気のなさが目立つ手抜きぶりを見せたクラスメイトにもオタクは手厳しかった。
オタクの目が僕に移る。
オタクの目は心なしか期待を込めているように輝いている。
僕に何の期待をしている??やめろ??
「では最後、李生殿、セリフを読み上げてくれますかな?」
くそ、吃っても棒読みでもセリフ繰り返させられるんだろ?
こんな小っ恥ずかしいセリフ何回も練習なんてしたくない。
でも、回避するには…。
そんなの、ガチで演じるしかないじゃないか。
覚悟を決めた僕はすっと息を吸って、一歩踏み出した。
はぁ、と呆れを含んだ吐息を洩らす。
『ー…そんなことも一人でできないなんて…』
少しだけ視線を下げて頬に手を当てる仕草をした。
そして、嘲笑混じりで、少しだけ仕方なさそうに微笑んで言う。
『本当に手のかかるお人形さんですこと』
はい、終わり。
ぱっと演技を止めると、なぜか教室中が沸いた。
「李生様完璧だ…!」
「メイド服姿が浮かんだ!!」
「李生様に接客されたいっ!」
一斉に響く声は聖徳太子ではないので聞き取れないが褒められているらしい。
悲しいことにメイドの演技褒められても嬉しさがこれっぽっちも沸いてこないんだけどね。
何なら執事の方がマシだったよ。
目の前にいたオタクは身体を震わせて俯いていた。
ん?様子がおかしいぞ?
「素晴らしい…っ、素晴らしいよ李生殿!
僕の求めてた理想のメイドそのものだ!
ぜひ録音させてもらえないか!?」
『お断りします』
取り出されたボイスレコーダーに僕はにっこり笑顔で言った。
誰が女装メイドボイス残したいと思うんだよ。
これで終わりかと思ったら感激したらしいオタクに他のセリフも読まされて最悪だった。
げっそりしながら練習を終えて教室に戻ろうと廊下を歩いていたら後ろからバタバタと足音がした。
走ってる?文化祭準備時間の最中に?
何してるんだろうと思って振り返ろうとしたらこちらへ走ってきていた一人の生徒とばっちりが合った。
え、あれって。
面倒事の気配に咄嗟に前を向いて知らないふりしようとしたが、手を引っ張られて視聴覚室に引きずり込まれた。
あ、嫌な予感。
『…!?』
かなり驚いたが、しーっというポーズをされて何とか悲鳴をこらえる。
すると、視聴覚室前を通り過ぎていく数人の気配。
…よくわからないけど、何で逃げてるんだ?この人。
僕が出会ったのは生徒会のメンバーこと、柊百だった。
たしかクールビューティとか言われてるらしい(要らない瀬尾情報)同級生だったっけ。
「………」
『あの。
行ったみたいだよ?』
黙って僕の手を掴んだままの柊にそう言う。
柊はハッとした後ぱっと手を離し、目を左右に泳がせて言った。
「…突然引っ張り込んでしまって堪忍な、捕まりたくなかったんよ」
控えめだったが通る声だった。
おや珍しい、関西弁だ。
腕を抱え込んでどこか怯えている様子の柊に少し心配になった。
『何かあったの?』
柊は小柄で可愛い系の顔だし、もしかしたら虐められてるのでは?と思ってしまった。
柊は言いにくそうな顔をして口を閉じたが、ポソポソと言った。
「うちのクラス、劇やるんよね。
…でも、僕…、姫役されられそうになって。
拒否したくてもできひんかったから、どうしても嫌で逃げ出してしまったんよ」
『うわぁ』
姫役とかたしかに嫌だ。
まぁメイドすることが確定してる現状も嫌だけど。
それで柊は姫役断固拒否で逃走してクラスメイトに追いかけられているのか。
僕も目立ちたくないし女装したくないし、気持ちはよくわかる気がした。
『僕のクラスはメイド喫茶で僕は友達の代わりにメイドすることになったよ…』
不覚にも瀬尾の思い通りになってしまったことが悔しくてたまらない。
今頃病室でダブルピースでもしてそうだ、退院したらお礼参りしよ。
遠い目をしながら言ったら柊は気の毒そうにあらまぁと口を押さえた。
「御臨終、やね」
『まだ死んでないわ』
人を勝手に殺すなよ。
まぁ…、文化祭で死ぬかもだけど。
突っ込んだら柊はちょっと楽しそうに微笑んだ。
柊って普段静かだからクールで喋らなそうなイメージだったけど実は違ったのかな?
『柊って無口なわけじゃないんだね』
思わず思考が口に出てしまい、ハッとする。
柊は目を瞬かせると静かに自嘲して言った。
「普段は喋らんようにしとるんよ」
『え?』
「僕の口調ってここでは浮くみたいやから、喋らん方が楽やなって気付いてん」
浮く、か。
まぁ確かにここは標準語の人がほとんどだから関西の方言って聞かないしな。
喋ってて嫌なことでも言われたのかな。
どことなく闇を感じる柊の話を聞いて僕は口を開いた。
『僕は好きだけどな、柊の喋り方』
「!」
『柔らかいし、優しい感じがする』
僕はよく高圧的だと言われるから柊のやんわりとした感じは多分どう頑張っても出せない。
だから、柊になんかした奴らがいたとしたら僕がやっつけてやりたい気分だ。
柊の自信なくさせやがって、こんなに素晴らしい喋り方だと言うのに。
内心で怒っていると、柊は目を丸くして固まっていた。
え、もしかして引かれた?
初会話で好きは流石に気持ちわるかった??
『え、えっと、ごめん、何も知らないのに好きとか意味わかんないよね』
ははは、と笑って流そうとすると柊はハッとしてぶんぶん首を振った。
「!ちゃうねん、引いたわけやなくて、ここに来て初めてそんなこと言われたから驚いたんよ」
『えっ』
僕以外に褒めたやついなかったの??
皆どこ見てんの?見る目なさすぎんだろ。
なんで1人もいないんだよ。
柊は少し泣きそうに目を潤ませて、でも嬉しそうに笑った。
「嬉しいわ、おおきに…李生」
『!僕の名前…』
知ってたのか、と驚いていると柊は悪戯っぽく微笑む。
「会長がずっと言うとるもんやから覚えてしもうたわ、李生も僕の名前知っとるんやろ?」
『まぁ、うん』
生徒会のことは何もしてなくても瀬尾づてに耳に入ってくるし。
てか、会長って生徒会メンバーが覚えるくらい僕のこと話してんの?
…あ、もしかして明らかに僕に興味なさそうな副会長が名前知ってたのも会長の影響?
何してくれてんだよ、会長。
僕はモブでいいのに認知されてんじゃないか。
「会長の話聞いてても思うたけど李生ってええ人やね」
『え?』
柊の発言に宇宙を背負った。
今、幻聴が聞こえたような。
僕が良い人??
瀬尾が聞いたら一笑に付すような言葉である。
「会長に告白されてもバッサリ切り捨てたりせんで柔らかく断ったって聞いたし」
そりゃ出来ることなら切り捨てたかったけどさ。
それ以上に会長のメンタルぶち壊して周りから責められるのが怖かったから色仕掛けで濁しただけだよ。
「ストーカーから庇った、瀬尾君…やったっけ?親衛隊隊長のためにお見舞い行っとるみたいやし」
殺し損ねたから息の根を確実に止めるために行ってるだけだよ?
まぁ僕だけ面会拒絶されてるから会えてないけども、残念残念(>_<)
にしても、こんな僕が良い人なんて会長は僕のどこを見て判断しているんだろうね。
変なフィルターかかってんのかな?
僕は困ったように眉を下げながら微笑んで言った。
『多分会長の目は節穴なんだと思う、鵜呑みにするべきじゃないよ』
柊はそれを聞いて首をかしげると、
「何言ってはるん?ほんま李生っておもろいわ」
と全く信じてなさそうだった。
さっきの僕から贈る本気のアドバイスなんだけど…。
嘘だろ、皆視点の僕どう映ってんだよ。
絶対僕を見るとき聖人君子かなにかのフィルターかかってるよね?
…って、つい話し込んでしまってたけど今何時だ!?
時計を見るとかなり時間が経っていたので慌てて会話を切り上げる。
視聴覚室から出ていく前に柊から「李生と話せて良かった、話しかけてもええかな?」と声をかけられた。
生徒会…関わりたくない…でも断りにくい…。
柊は会長や信楽みたいな下心は感じないし副会長みたいに目の敵にするわけでもないし。
友達、友達…。
『いいよ、またね』
今回も断れなかったな…。
笑顔で手を振ると柊は嬉しそうに笑って振り返してくれた。
視聴覚室を出てドアを閉めると若干の後悔が襲ってきて顔を覆った。
あー、やっちゃった。
関わるつもりなかったんだけどな。
(李生がいなくなった後)
百「李生ってお人好しなんやね。
…会長が好きになるんも理解できる気ぃするわ」




