知らぬが秘密、ってね。
次から文化祭編。
食堂にて瀬尾の奢りでご飯を食べていると空気が一瞬ざわついて落ち着いた。
生徒会や僕達が来た時の歓声とは違うということは。
こちらに近付いてくる気配を感じて顔を上げると、予想通りの人物が立っていた。
「や、李生」
「ご無沙汰しております、李生さん」
『棗、楸』
風紀委員会の委員長花野棗、副委員長奥山楸の2人だ。
風紀は騒がれるのを嫌うから皆静かなんだよね。
僕が食堂に来たも静かにしてほしいんだけどな。
棗と楸は一年の時クラスが同じでよく話していた。
棗はイケメンな上に物腰柔らかいから見た感じ優しげだけど、実は苛烈で力で制することも厭わない。
楸も誰に対しても丁寧な敬語を使い真面目でクールそうでミステリアスに見えるけど、実は不真面目なことも大好きで悪ノリしたりもする。
この2人も目立ちはするけど、陰で暗躍しているからあまり気にならない。
「李生、転校生の件ありがとう」
名前はなかったけど雛斗のことだとわかった。
腰を折り頭を下げる棗に周りがざわつく。
僕はため息をついた。
もーこんなところでやめてってば。
風紀委員長が僕なんかに頭下げてたら目立つじゃんか。
『そんなに改まらなくてもいいって。
呼んでたら間に合わなかったってだけだし』
2人には僕が元ヤンとは話してないけど、僕の腕っぷしの強さは伝えてあった。
風紀呼ぶより僕がボコった方が早かったからそうしただけ。
棗はぱっと顔を上げると「でも、君がいなかったら犠牲者が出ていたかもしれない」と真剣な顔で言う。
『風紀も人間なんだから見落とすくらい仕方ないよ。
今回はたまたま僕が通りかかっただけだけど、被害は少なくて済んだじゃん。
自分達が悪いとか思わないでよ』
ぶっきらぼうにそう言うと棗と楸は目を見開いた後、ありがとうと嬉しそうに微笑んだ。
棗達は責任感が人一倍強いから。
まぁだからこそ風紀のトップなんだろうけど。
僕は責任感なんてもの背負いたくない人間だから風紀の2人は素直に尊敬する。
「李生さん、瀬尾さん、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
「たしかにそうだね、同席してもいいだろうか」
『僕は構わないけど瀬尾は?』
「アッオカマイナク」
カタコト言葉の上にぼーっとしてる瀬尾に僕は死んだ魚の目をしながら言う。
『…いいってさ』
…コイツ僕とこの2人でまた薔薇の妄想してんな?
口に出してないからもう何も言わないけどさ。
そう言えば瀬尾とは一年の時クラス別れてたからこの2人と仲いいの知らなかったんだっけ。
棗と楸は食事を取ってくると席に座った。
「最近生徒会に絡まれてるらしいね」
「そうでした。
大丈夫ですか?変なことされてませんか?」
生徒会というワードに噎せそうになった。
風紀と生徒会は仲悪いって聞いてたけど、風紀にまで広がってるんだ…。
絡まれてる、…うん。
会長には告白され友達になってしまったし、信楽有馬にしつこく絡まれるし、副会長からは会うたび睨まれるし。
生徒会の2分の1と関わってるからね…、最悪。
心配そうな2人の顔に僕は素直に全力でめんどくさげに言った。
『正直ダルいけどまだ大丈夫』
「親衛隊の副隊長にもなったんだろう?
その、…手を出されたりはしてないよね?」
『そんなことになる前に殴って再起不能にしてるよ』
僕が雑魚如きにやられるわけがない。
ありえないと言わんばかりにとびきりの笑顔で言ったら「ゾクゾクしますね」と楸がぼそっと呟いた。
なんて??
「そうだよね、君は強いから誰にも穢されたりなんてしないよね」
ようやく棗は納得したようでさっきまでの心配そうな様子はなくなった。
すると、黙ってた楸は未だに妄想してるのか上の空な瀬尾をじっと見て言った。
「そう言えば瀬尾さんと李生さんは幼なじみでしたっけ」
『え、うん、まぁ』
幼なじみていうか腐れ縁だけどな。
瀬尾との関係を聞かれるとは思ってなかったからキョトンとする。
それは瀬尾も同じだった。
( ゜д゜)ハッ!みたいな顔して正気に戻ってきた、おせーよ。
「瀬尾さんから見た李生さんってどんなイメージなんですか?」
「悪魔」
間髪入れずに即答する瀬尾に僕は低音で凄む。
『○すぞ』
誰が悪魔じゃ、てめーだろ性悪。
僕の圧に瀬尾は後で殴られたくないからと口を噤む。
途端に口が悪くなった僕に棗と楸は目を丸くする。
あら、やだいけない。
2人の前でこんな発言してたら取り締まられちゃう★
「李生さん素は口悪いんですね」
「意外だな」
『忘れて?』
取り繕うようにあざとく首をかしげてみたけど、
「「無理だろ/です」」
と言われてしまった。
ヂッッッ。
「ますます李生さんのこれまでが気になりますねぇ」
『世の中には知らない方がいいこともあるよ』
「瀬尾と仲良くなれば聞けるかな」
『瀬尾、絶対話さないでよ』
瀬尾に笑顔でこれでもかと圧をかけた。
僕のこれまでなんてろくなもんじゃない。
中学時代なんて喧嘩しかしてない上に舎弟がどこにでも存在し、いつもいつも崇拝されいつのまにか裏番長に君臨させられていた。
当然裏番長なんてやめたかった。
思いの外に喧嘩無双できて調子乗った自分も悪いけど学校の内外のどこいても恐れられたり崇められるの怖いよ。
高校ではそんな生活やめようと思って遠くの誰も知り合いのいないここへ入学したのだ。
瀬尾と何故か一緒に入学していたのは誤算だった。
瀬尾とは幼稚園や小学校はずっと一緒で、中学は違ったけど同じ区域に住んでたわけだし会える距離にいたわけだから僕のことは知られていたから。
瀬尾にヤンキー時代をバラされたら僕がヤバイやつ認定されてしまう。
比較的まともで風紀を担う棗と楸にそんなこと知られたら縁を切られかねない。
「李生さんの出身中学校名も知られてませんし、気になるんですけどねぇ」
楸の言葉に僕は黙って笑顔を作る。
そんなん言ったらバレるに決まっとるやろがい。
あの中学校の生徒じゃなくてもその周辺にも舎弟がいたんだ。
中学校名バレたら芋づる式で僕のこともバレちゃうんだよ。
それに中学校の人達は連絡先全部消したし。
探されてたりしたらなおのことやばい。
『秘密』
僕は目を細めると唇に人差し指を置いて、魅惑的に微笑んでみせる。
2人はそんな僕をじっと食い入るように見つめると、
「秘密かー、仕方ないね」
「そうですねぇ、今は諦めましょう」
と残念そうに肩をすくめた。
楸については“今は”なのが怖いけど一旦諦めてくれるらしいからそれでいっか。
ごめんね、知らない方が知るよりもいいってことなんだよ。
知らぬが秘密、ってね。
棗「李生の中学校時代気になるなぁ」
楸「意外とやんちゃだったりして」
『( ゜д゜)ハッ!噂されてる予感』




