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自分の心も身体も、まるで他人の所有物のようだった。


相手のリズムに無理やり自分を当てはめ、愛想笑いを張り付ける。自分の心や身体がどこにあるのかも分からない「馴染めなさ」こそが、香が抱える対人関係の違和感の原体験だったのかもしれない。


交わるという行為が深まれば深まるほど、その違和感は生々しい痛みとなって彼女の輪郭を削り取っていった。


結局、誰かと深く繋がり、交わるということは、常に相手の顔色を窺い、自分を切り売りし続けることと同義だった。


その事実に絶望した時、香の足は自然と、夜の「外側」へと向いていた。


放課後の校舎の裏、錆びついた自販機が並ぶ深夜のコンビニの駐車場、そして地元のヤンキーたちが集まる峠のパーキング。


大人たちが「非行」と呼び、眉をひそめる場所に、香は自分の居場所を見出した。


夜の街にたむろする連中は、一見すると粗暴でルール無用に見えた。だが、香にとっては教室よりも遥かに息がしやすかった。彼らは、お互いに深く干渉しない。誰がどんな過去を持っていようが、親がどうだろうが、次のテストの点数が何点だろうが、どうでもよかった。


改造されたバイクの、鼓膜を震わせる爆音。


紫煙の立ち込める気怠い空気。


「おい香、お前も乗るか?」 ぶっきらぼうに差し出された400のリアシートに跨がり、夜の風を浴びている時だけ、香は自分が「透明な記号」になれた気がした。


そこには、探るべき「正解」も、機嫌を取るべき大人もいない。冷たいアスファルトの上で、ただ無意味に時間を消費する。それこそが、息苦しい社会から自分を守るための、香にとってのたった一つの生存戦略だった。


「お前、最近学校行ってねえんだってな」


ある夜、補導員や教師たちが香を取り囲んだ。彼らの目には、哀れみと、それ以上に「厄介者」を見る軽蔑の色が混ざり合っていた。


「どうしてこんなことをするんだ。理由を言いなさい」


理由。そんなもの、言ったところで誰が理解できるだろう。


『あなたの顔色を窺うのに、吐き気がするほど疲れたから』 そう口にすれば、今度は「言い訳をするな」「親の顔が見たい」と、さらに新しい正解の型に嵌め込もうとしてくるに決まっている。


香は固く口を閉ざした。


沈黙だけが、彼女に残された最後の抵抗だった。

理由を語らない香を、学校や世間は「不良少女」と断定し、レッテルを貼った。


腫れ物に触れるような周囲の視線、ひそひそ話、軽蔑の眼差し。その不快な感触は、香の心の奥底に、消えないおりのように沈殿していった。


けれど、香自身に非行に走っているという自覚は薄かった。


ただ、教室という密室の中で、隣の席の誰かの機嫌を窺い、教師の期待する「正解」を演じ続けることに、吐き気がするほど疲れていただけだった。


他人の作ったルールに自分を当てはめるよりも、冷たいアスファルトの上で気ままに過ごす方が、よほど自分に対して誠実だと思えた。


しかし、世間はそれを「悪」と断じた。


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