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(勝手に言っていればいい。私はもう、あんたたちの土俵には立たない)


夜の闇の中で、香は何度もそう心の中で毒づいた。他人の作った規律に自分を殺して従うくらいなら、不良と呼ばれて孤立する方が、よほど誠実だと思えた。


その荒んだ日々の果てに、彼女が出会ったのが「大型トラック」という、もう一つの鉄の城だった。


地元の建材屋で、偶然目にした十トン車の圧倒的な存在感。


キャビンに乗り込めば、外界から完全に遮断される物理的な空間。 ハンドルを握り、時速八十キロで直進する。そこには、言葉の裏を読む必要も、踏みにじられる愛想笑いも存在しない。


守るべきは、目の前の道路と、積み荷と、約束された時間だけ。


物理的な距離と速度だけが支配するその冷徹な世界こそが、かつて夜の街を彷徨った不良少女が、ようやく見つけた「誰にも侵されない聖域」だった。


過去の記憶は、バックミラーを流れる深夜の景色と同じだ。


どれほど泥濘ぬかるみのような日々であっても、スピードを上げて進み続ける限り、あの街が香の未来に追いついてくることは、二度とない。



ふと意識が覚醒し、香は狭い仮眠室で目を開けた。


カーテンの隙間から、パーキングエリアの外灯が漏れている。紺色のツナギに包まれた今の自分。汗ばんだソックスを脱ぎ捨て、誰の期待にも応える必要のないこの孤独な空間。


あの頃の、拠り所なく誰かの顔色を探っていた自分はもういない。今の自分を支えているのは、甘い憧れなどではなく、十トンの鉄の塊を操る自分自身の腕と、目的地まで続く冷徹なアスファルトの感触だけだ。


香は小さく寝返りを打ち、再び目を閉じた。


過去の記憶は、バックミラーを流れる景色のように、二度と追いついてくることはない。次に目を覚ますときには、また新しい、誰にも侵されない道が始まっている。


狭い仮眠スペースで、香は微かに唇を噛んだ。


当時の自分に向けられた、蔑むような、あるいは腫れ物に触れるような視線。あの不快な感触は、今の仕事を選んだ動機の、最も深い場所にある根っこのようなものだ。


今、自分を動かしているのは、誰かが決めた規律ではない。十トンの積み荷を預かる責任と、自分の腕一本で道を切り拓くという自負だ。


かつて自分を縛ろうとした「世間」は、今やフロントガラスの向こう、猛スピードで過ぎ去っていく点に過ぎない。香は重い瞼を閉じ直し、今度こそ意識を深い静寂へと沈めていった。


深夜三時のアラームが鳴るまで、自分を誰の目にも触れない場所へ隠すように。


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