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洗い場で丁寧に汗を流し、立ち上る湯気の向こうにある大きな浴槽へ。
ゆっくりと身体を沈めると、熱い湯が凝り固まった筋肉を容赦なく解きほぐしていく。十トンの巨体を支え、絶え間ない振動を受け止めてきた肩から腰にかけて、血の巡りが一気に加速するのが分かった。
「……はぁ」
思わず、深いため息が漏れる。誰の視線も、誰の機嫌も気にしなくていい、圧倒的な解放。
香は首まで湯に浸かり、目を閉じた。湯の熱がじわじわと皮膚に染み込み、芯まで冷えていた身体を内側から暴くように解かしていく。重力から解き放たれ、水中に漂う身体。
ふと、湯面に自身の胸の膨らみが静かに浮かび上がり、その先端が夜の空気のような冷えを孕んだ外気に触れて、きゅっと小さく硬くなった。それは無防備で、あまりに個人的な、官能的とも言える光景だった。
お湯に濡れてしっとりと張り付いた長い髪をかき上げると、首筋から鎖骨にかけて、上気した肌が艶やかに光を反射する。
かつて誰かの顔色を窺いながら、ただ怯えを隠すために差し出していたあの頃の未熟な身体は、もうどこにもない。今はただ、自分という生命を維持するための、愛おしいパーツとしてここにある。
湯の中で、自分の滑らかな太ももや、ペダルを踏み続けたふくらはぎを自ら愛おしむように撫で下ろす。今の香の身体には、十トンの衝撃を支える確かな筋肉と、数百キロの夜を越えてきたプロとしての誇りが、その瑞々しい肌の奥に確かに宿っていた。
不良と呼ばれたあの日々も、中学のあの日の記憶も、この熱い湯に溶けて消えていくようだった。
熱い湯に身を委ね、自らの輪郭を確かめるように深く息を吐き出す。この火照るような官能は、誰のものでもない、香自身が自立して生きている証そのものだった。




