3.シンプルとハデ
私は、道ある道を進んだ。ひたすら続く一本道を歩いた。するとまた広場が現れた。今度はテーブルや食事はなかった。その代わりと言ってはなんだが、シンプルな服と、ハデな服が木にぶら下がっていた。しかもそれぞれに道が続いている。ん~困った。この服を着て進めということなのか?それとも誰かが置いていったのか!?オブジェなのか?色んな想像をしている私がいた。普段私はどんな格好をしているのかと言うと、会社に行くときも、遊ぶ時もそのほとんどがパンツ姿だった。スカートは滅多にはかない。それは何故かと聞かれたら、とっても面倒だからだ。まず、見える見えないを気にするのが面倒。胡坐をかいたり、足を気にせず広げたりできるのが楽だし、女の子女の子したりして、色気を出したりなんてことに私は無縁だった。シンプルとハデ、どちらがいいとかの問題以前にスカートかパンツで私の価値観が決まってしまう。単純だった。このまま服はほっておき、行くべきか?服を着て行くべきか?さほど問題でもないことで悩んでいる私がいた。でも悩むということはどこかで服を着たいと思っている私がいることは確かだ。私が悩む時、悩んでいるそぶりを見せる時、大概、その悩める対象が好きだということだったからだ。さすが自分と何十年も付き合っているとよくわかる。当たり前か・・・で、そうやって悩んでも結局は諦めてしまう私がいることも知っている。だが、オムライスの一件以来、私自身スイッチが入ったような気がする。それはポジティブ菌を増殖させるスイッチ。なんでも物事をプラスに考えるようになるものみたいだ。私はシンプルな服を手に取ってみた。シンプルと一言でいうのは簡単なのだが、私がこんな服を着てみたいなーという服を絵に書いたようなものだった。こうなったらやけくそ!と、私は着替えることを決心した。私のポジティブ菌はすでに脳を侵略しているみたいだ。けど問題が、大きな問題が一つ。一応女の子、私は女だ。誰もいないと思われる森の中だってこのまま着替えるということに抵抗があった。こういう時にかぎって脱いだあと誰かが現れたり、とんでもない災害が起きたりする、そんなコントを思い出していた。くだらないが、なくはない。そんなことを考えていたらいつの間にか笑っていた。しばらく使わなかった頬の筋肉を使ったのでにやけているのがすぐわかった。それが嬉しくて、今度は誰に気兼ねするわけでもなく笑ってみた。すると木々がゆらめき、私に微笑み返してくれたように感じた。なんだかすごい!私のポジティブ菌が木にまで影響しているような気がして嬉しくなっていた。それまでの私が私じゃない!木々のゆらめきがさらにパワーをくれたみたいだった。そのゆらめきは私の頬にも伝わるくらいの風になった。ここちよい風は強風へと変わっていった。私の微笑みもその変化に比例してこわばりへと変わっていった。
突然の変化に対応する。
起きたら森の中。歩いていたらオムライス。そして、服。さらには風。人間免疫が出来るとその変化にも鈍くなるのだろうか。何があったとしても、何もなかったとしても、どんな状況にも対応できる気がしていた。すると、余裕な私の視界にカーテンのようなものが入ってきた。さっきまであそこにそれがあったのだろうか?そんな疑問もあったが、そのカーテンのようなものに近づいてみた。カーテンだった。それはフィッティングルームみたいにカーテンがぶらさがっていたのだった。
「すいませーん。誰かいますか?」
返事はない。そっとカーテンを開けてみた!・・・誰もいない、いるわけがない。ポジティブ菌増殖中の私の頭の中はここで着替えられるじゃん!となっていた。さっそく服を取ってきて、カーテンの中に入った。そこにはちゃんと釣り針のような、ハンガーのような、ようするに服をかけられる場所もあったのだった。けっこう考えてるじゃん!と本当は何に使うものなのかもわからないくせに感心している私がいた。
着替えが終わると、いつもの、普段の私。正確にいうとちょっとオシャレな私に変身した。しかもその服はお気に入りの靴と合っていた。これでほぼ見た目は完璧?になった私。もう怖いものはない・・・と思う。さすがにパジャマで行動することに抵抗があったのだ。私は休日、どんなに面倒くさくても身だしなみをちゃんとする方だった。母親がそうだったからかもしれない。パジャマで外に出るなんて母が聞いたら「そんな子に育てた覚えはない!」と泣き出すだろう。そういった教育がそうさせるのか、DNAがそうさせるのか、身だしなみを整えるということは私にとっては当たり前であり、苦痛でもなかった。大人になると身だしなみの一つに化粧という項目が増える。社会人になると最低限の化粧をし、外へ出ることが当たり前だった。休日でも軽くグロスをのせて髪をセットし外へ出た。そんな私がである。ノーメイクで髪はボサボサ。それだけで本当は気持ちが落ち着かなかった。さらにパジャマ姿で歩いていたのだ。それは信じられないことだった。なんだかちょっとすっきりした。例え髪のセットやグロスをぬってなくても、服装だけは、パッと見だけは体裁というか、私的に納得できるものになったのだ。そんな安堵感が私にはあった。
後は、道ある道を進むべし。
いつのまにかそんな使命感が宿っていた。私はシンプルな服がかかっていた先の道を選んだのだ。いったいこの先何が待ち受けているのだろう。オムライス、服ときたら次は何を貰えるんだろう。そんな不安と期待が混ざった気持ちを胸にゆっくりと一歩また一歩と進んでいった。
最初は獣道に毛がはえたみたいだった道が石畳の道へと変わったのはいつ頃だろう。なんで道のことを気にするかというと、石畳は私にとって不都合だった。まだ獣道の方がいい。私は歩くのが苦手なんだろうか。よく躓くのだった。雨や雪の日なんかはどうやったらそんなに汚れるの?と首を傾げるほど背中が汚れた。水や雪がはねて背中を汚すみたいなのだ。それによく転びもする。だからなのかなー、スカートが嫌いってか、あんまりはかないのは・・・。
しばらくするとなぜだか石畳の道は終わっていた。歩きやすい道にと変わった。獣道でもなく石畳の道でもない。アスファルトでもない。私が一番歩きやすいと思っている芝の道だった。ただ単純に転んでも芝があると痛くなくやわらかい感じがするというか理由だ。その芝の道をゆっくりとだが、確実に進んでいる。
ん?
ふと私は足を止めた。ちょっと気になったことがあったからだ。それを確認したくって道を戻った。
・・・あれ?
そんな歩いたはずはないのに芝の道。石畳の道はどこへいったんだろう?ずーっと前に芝の道になったからなかなか石畳の道に戻れないのだろうか。
ただ、ちょっと混乱しているだけだろうか。
?
座ってじっくり考えたい。しばらくして広場があったらそこで考えてみよう。
突然の変化に対応し、それに慣れてきた私だが、いままでのことを振り返ってみてもいいと思った。ちょっと整理しておかないとこれからの変化に対応していくのにグズグズになってしまうような気がしたのだった。進むか?戻るか?ポジティブ菌増殖中のはずの私だ!!進もう。そう思った。なぜだか拳を作り頷いていた。後戻りは何の解決にもならない。そう教えてくれたんだと思う。
おじいちゃんのオムライスが私にそうさせてくれるんだと思う。
芝の道を前へ進むことにした私の歩く速度は速くなっていた。すると歩いて間もないのに広場が見えてきた。さっきまで広場の「ひ」の字も視界にはなかったのに・・・。
そして、その広場には私を驚かせるものがあったのだった。




