第8話 無視した?
「咲翔、早ない?」
その後、集合場所にどんどん人が集まっていた。
泰斗も合流し、咲翔の班は全員揃っていた。
「いつも通りに来たら、こうなった」
「俺なんか、全然起きれんかったで」
咲翔、特進クラスの時も、今日もなんで忘れるの…………。
特進クラスはまだしも、今日はほぼいつも通りじゃん。
わざわざ、ピンポンしに行ったのに…………。
「葵音さん、行かないの?」
「あっ、い……行くね」
1年生は、森の中でアクティビティを楽しんだあと、バーベキューをしていた。
…………咲翔、楽しそう。
もう、今朝のことは忘れたのかな…………?
それとも、引きずってる私がおかしいの…………?
「葵音さん、食べないの?」
「あっ、ごめん。ボーッとしてた」
咲翔、みんなが居ない間に、片付けしてる。
そんな気が利くのに、なんで朝は――
葵音が、咲翔のことを見ていると、咲翔がバランスを崩してバーベキューコンロの方へ倒れそうになっていた。
「……っ!!」
体が勝手に動いていた。
「…………良かった。間に合った」
「…………ありがとう。葵音」
幸いにも、咲翔と葵音の班のテントは近く、コンロ寸前のところで間に合っていた。
「もう、だから言ったじゃん。ボーッとしないって」
「あはは…………バレてたか」
咲翔は、口を引きずらせながら笑っていた。
「笑い事じゃない。危ないでしょ」
「…………ごめん、気を付ける。ありがとう、助けてくれて」
「…………ん」
葵音は、亀のような足取りで自分のテントへ帰っていった。
「葵音さん、運動神経良いんだね!!」
「え?」
「何かスポーツしてたの?」
「というか、今のかっこよすぎるでしょ!!」
「中学の時にバドミントンしてたから…………」
「あの人、知ってる人?――」
葵音は、バーベキュー時間ギリギリまで質問攻めにあっていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
その後、一通りのプログラムが終わり、各自解散していた。
「咲翔って、この路線?」
「いや、もう一つの方」
「あー、通学もそうやもんな」
「帰れんくはないねんけど、定期がなぁ――」
「……咲翔」
葵音は、泰斗と話している咲翔の少し遠いところから声をかけた。
が、反応が返ってくることは無かった。
「……咲翔!!」
さっきよりも少し大きめの声量で声をかけるが、無反応。
「……咲翔!!」
さっきよりも大音量で声をかける。
「ん?咲翔、幼馴染が呼んでんで」
「え?ああ、ありがとう」
「じゃあ、また学校で」
「じゃあな。休むなよ(笑)」
「そっちこそ(笑)」
咲翔は葵音の元へ、駆け足で寄っていった。
「…………無視した?」
「え、あっ、ごめん。本当に気付かんかった…………」
「…………そう。帰るよ」
「う、うん…………」
…………また、怒らせてしもうたか?
電車では、朝と同じように喋ることは無かった。
けど、朝とは少し距離が遠い気がした。
「…………咲翔、無理してるでしょ。それか、私のことどうでもいいって思ってるか」
葵音は、咲翔の一歩前を歩いていた。
「…………え、何が?」
「今日、ずっとおかしい。朝もバーベキューのときも、さっきも」
「…………ごめん」
「謝って欲しいんじゃないの。無理してるのか、私のことをうっとおしいって思ってるのか聞きたいの」
葵音は、今までに感じたことのない声色で聞いた。
「…………昨日、夜遅くまで勉強してた」
「…………本当に?」
「本当に」
「…………そ」
声が少し柔らかくなった気がした。
「…………葵音ことをうっとおしいなんて思ったことない。じゃなきゃ、10年以上も一緒に居らん」
「…………そ」
声色が、いつもの調子に戻っていた。
「じゃあ、今日のこと許す代わりに、約束して。私と同じように、無理はしないこと」
葵音は、咲翔の方へ振り返った。
葵音の後ろで、夕陽が沈んでいる。
「……おう」




