番外編6 挨拶
そそくさと建物の中に入った後、予約していた少し高めのレストランに入り、食事を終えた。流石に高級レストランは前日には空いていなかった。
「今日って、私の家に泊まる日じゃん?だから、挨拶していい?」
「うん、ええよ」
そして、葵音の家に着いた。リビングでは全員がリラックスしていた。プロポーズしたことは聞いてないらしい。
「葵音、おかえり。咲翔くんもいらっしゃい」
「お邪魔します」
「皆、ちょっといい?」
何々と言わんばかりに、ダイニングテーブルに座る。
どっちから切り出すかは事前に決めておいた。
「…………お義父さん、お義母さん、娘さんを僕にください!!」
「「「「え!?」」」」
「あっ…………」
…………ミスった。言う言葉を間違えた。本当は「結婚します」という報告だったはずなのに。なぜか、直前になってドラマを思い出してしまった。
「え、咲翔お兄ちゃんプロポーズしたの!?昨日までそんな雰囲気無かったじゃん」
「…………まぁ、咲翔くんなら、ねぇ?」
「ああ、咲翔くんなら葵音のこと、大丈夫だろう」
なんか、変な空気になった。俺と葵音は困惑、奈緒音は驚きのあまり固まっている、おじさん、おばさんいや、お義父さんとお義母さんは、突然のことに困惑しながらも、安心している。
「…………ありがとうございます」
そのまま、流れ解散となった。
順番にお風呂に入り、葵音の部屋に行った。待っている間、めちゃくちゃ気まずかった。
「咲翔、言う言葉間違えてたね」
困惑していた表情から一変し、葵音は小悪魔的笑みを浮かべていた。
「なんか急に、ドラマ思い出してさ」
「なんでよ」
横腹をツンツンしてきた。俺もツンツンし返す。
「あはは、まさか土壇場で間違えるなんてね。おばさん達は本当に明日で良いの?」
「うん。明日は全員休みやから」
「そっか。じゃあお休み、咲翔。いや、私の旦那さん」
「…………お休み」
葵音は小悪魔的笑みのまま、眠りについた。指輪ケースは、大事そうに机に置かれていた。
◇ ◇ ◇ ◇
次の日、早めに家を出た。外はまだ薄っすらと月が出ていた。寒い。けど、葵音といれば寒くない。
「おかえりなさいませ、咲翔様、葵音様。…………お仕事でしたのでしょうか?」
門には三明さんが立っていた。正装に疑問を持ったらしい。
「いや、違います。あと三明さんにも伝えたいことがあるので、部屋の中まで来てもらってもいいですか?」
「承知致しました」
三明さんは、頭の上に疑問符を浮かべながらも、案内をしてくれていた。
――コンコンコン
「失礼いたします。咲翔様と葵音様がお戻りになられました」
案内されたのは、おじいちゃんの書斎だった。壁一面が本棚だった。ソファに腰をかける。
「咲翔、報告って何?」
母さんも父さんもおじいちゃんも、不安そうな顔はしていない。むしろ、興味津々な顔だった。
「……実は、葵音と結婚することにした」
「「「え!?」」」
その場にいた全員が動きを止める。
「咲翔、葵音ちゃんと結婚するのか!?」
おじいちゃんは、開いた口が閉じていない。
「咲翔様、まことでございますか!?」
三明さんは、少し嬉しそうだった。
「…………葵音ちゃん、本当に良いの?」
「そうだぞ。咲翔、本当に責任を持てるのか?」
母さんと父さんは、俺と葵音を交互に見ていた。
「はい。咲翔ならうれしいです。よろしくお願いします!!」
「なら、良いけど…………。咲翔、絶対に葵音ちゃんを大切にするのよ」
「はい!!」
もちろん、大切にする。そう約束した。してきた。一生、約束する。
「咲翔、葵音ちゃん、結婚費用の心配はいらん。値段は気にせず好きなようにしな。費用は出したる」
おじいちゃんはおもむろに立って、背中を指さした。
「…………おじいちゃん、それ何してるん?」
「ん?安心せぇってことや」
引退したおじいちゃんの背中は、少したくましく感じたが――
「…………めちゃくちゃ、おもろいな。それ」
「なんやて?」
その場に笑いが広がった。




