番外編4 海水浴
月日は流れ、あっという間に高校生2回目の夏休みなっていた。
その間、葵音とは特段デートというデートはしていなかった。けど、互いの家で勉強をしたり、一緒に登下校したり、その時に寄り道したりした。いつも通り、それだけで十分だった。
「わー、海だー!!」
奈緒音が海を見てはしゃぐ。
俺たちは、一城さんから譲られた別荘に来ていた。
その別荘には少し小さめのプライベートビーチが付いていて、遊ぶには十分な広さだった。
砂浜にはもう既に、父さんとおじさんがビーチチェアを広げ、缶ビールを開けていた。
別荘の中には、日焼けするからと外に出たがらない母さんとおばさん。そして、母さん、父さん、俺の担当の使用人さん達がいた。
おじいちゃんは仕事が忙しいらしい。
「そんな走ってたら、また葵音に怒られんで」
「コケないもーん」
そう言って、奈緒音ははしゃいでいた。
「あっ……」
コケそうになった奈緒音を咄嗟に抱えた。どうやら、階段がもう一段あったらしい。砂に埋もれて見えていなかった。
「咲翔お兄ちゃん、ありがとう!!」
奈緒音はおじさんの方に走り出した。凝りてはないっぽい。
「お待たせ、咲翔」
別荘の中から葵音が出てきた。葵音は、水色の水着を着て、左手に奈緒音用の浮き輪を持っていた。
そして、葵音自身は既に浮き輪を着用していた。
俺はスイミングスクールに通っていたから泳げるが、葵音はどうしても泳げない。けど、魚は好きやから小さい時は、浮き輪をおじさんと協力しながら俺が引っ張って魚を一緒に見ていた。
「奈緒音、入るよー」
「はーい!!」
波打つ海に足を入れる。透き通ったキレイな海だ。このキレイさなら、浅瀬でも魚を見れるかもしれない。
「つめたーい!!」
「ゆっくり入りや」
「キレイだね」
「そうやな」
俺が先に入り、葵音と奈緒音の浮き輪に付いている紐を持つ。奈緒音は泳げるが、危ないから浮き輪をしている。俺もライフジャケットを着用しているから、沈むことはないだろう。
「あっ、もう魚いるよ!!」
「え、どこどこ?」
予想通り、まだ腰程度の深さなのに魚が足元を通る。透き通って、よく見える。
魚を一生懸命に探す2人の姿は、よく似ていた。
「そろそろ、深なんで」
「一気に深くなるね」
足が付かなくなった。平泳ぎの足で2人を引っ張る。
ライフガードの強制的な浮力のせいで、少し泳ぎにくい。
あまり、沖の方に行かなくても深かった。1分も泳げば、十分なほどに。
「わー、色んなお魚さんいる!!」
「本当だね。あっ、あれとか咲翔に似てるんじゃない」
「本当だー!!」
俺に似ている魚?
俺は気になって、体の向きを変えて海中を見た。
「ぷはぁ。もしかして、青いやつ?」
「そうそう」
「咲翔お兄ちゃんにそっくりだった!!」
「そうか?」
3人で笑い合った。去年のお祭りの時のように。それが、すごく幸せだった。
少し海に漂った後、一旦陸に上がり奈緒音はアイスを食べに別荘へ、葵音と俺は浅瀬で座っていた。
水面が、揺れて心地よかった。
「あっ、近くまで魚来てるよ」
「ホントや。人懐っこいな」
一匹の小さな魚が、葵音と俺の間をぐるぐる回っていた。
「咲翔といると本当に幸せ」
「俺も葵音といるとすごく幸せ」
水中で手を握る。そこに魚の尾ひれが当たる。
「…………ん」
後ろには、誰も居なかった。別荘からも遠い。
――チュッ
今度こそは外で誰にも邪魔をされずに、することが出来た。




