番外編3 送り迎え
今日は早く帰った。というか、奈緒音の視線に耐えられなかった。
「おかえりなさいませ、咲翔様」
いつも通りの動作。けど、イヤな気持ちにはなれなかった。いや、なってはならないのかもしれない。
「三明さん、本当にありがとうございました」
「…………咲翔様も同じ思いをされずに済まれて、本当に良かったです。康俊様も仰っておりました」
一城さんが…………?
「どういうことですか?」
「咲翔様のおかげで、心のモヤが取れたと仰っておりました」
…………やっぱり、一城さんも悩んどったんやな。
「分かりました」
◇ ◇ ◇ ◇
次の日、少し早めの時間に起きた。
今日の朝ごはんは全員で食べた。環境は変わっている。けど、嬉しかった。
「いってらっしゃいませ」
外はまだ雪が降っていた。和風庭園にも雪が積もっている。昔の人が歌を詠みたくなる理由が分かった気がする。
「まもなく、郭地、郭地です。お出口は――」
俺は郭地町の家の前まで来た。別に、家を懐かしみたいからじゃない。
「…………え、咲翔!?」
「咲翔お兄ちゃん!?」
「おはよ、葵音、奈緒音」
「なんで、居るの?」
「早く起きちゃってさ」
「もしかして、電車に乗ってきたの?」
「うん」
葵音と奈緒音はずっと驚いた顔をしていた。けど、俺が手を差し出したときにはいつもの顔に戻っていた。
奈緒音を真ん中にして歩き出す。3人で手を繋いで登校するのは小学6年生以来だ。
「今日も先生と咲翔お兄ちゃんに褒めてもらうために頑張る!!」
そういう言って、奈緒音は無邪気な笑顔を見せる。本当に交渉してよかった。失敗していたらこの笑顔も見られていない。
「行ってきまーす!!」
文化祭前の時のように奈緒音は笑顔で門をくぐる。今日は俺も笑顔で手を振ることが出来た。
奈緒音を見送って駅に向かう。自然と手を繋ぐ。
「咲翔、本当は早く起きたから来たんじゃないんでしょ?」
「…………バレてたか」
葵音は見透かしたように聞いてきた。俺は笑いながら答える。横腹をツンツンする指がこしょばい。
「それぐらい分かるよ」
登校中、ずっと幸せだった。




