第64話 喜び
声が出た。その時、同時に体が動いた。
葵音と全力で感動を分かち合う。全身で。
「…………本当に守りたかったのは、伝統ではなかったのかもしれないな」
一城さんが、ボソッと呟く。けど、俺にはよく聞き取れた。それに、よく理解できた。
「…………行きなさい。2人の時間を大切にしなさい」
「「…………はい!!」」
三明さんが、扉を開けてくれた。けど、案内は他の使用人さんが引き継ぐようだ。三明さんは、客間に残っていた。
「……葵音、本当にありがとう。葵音のおかげで、説得できた」
「……私こそ、ありがとう。これからも、側に居てくれるの?」
「当たり前や。家は遠くなるけど、そのために交渉してんから」
少し不安な顔をしていた葵音の顔が、いつもの笑顔のような、安堵したかのような色々な顔になった。
とにかく、その顔になってくれて嬉しいことには変わりない。
「おばさんにも、伝えに行こ」
「うん」
和風で落ち着いているが豪華な廊下を通る。
やっぱり、慣れない。けど、交渉する前までとは違う。
どこか、受け入れられるような気がした。
――コンコンコン
「千夏様、元親様、咲翔様と葵音様がお見えです」
「……母さん、父さん、交渉成功した。この邸宅には住まないといけないけど、それ以外は不問だって」
「「…………咲翔」」
抱きつかれた。けど、前みたいな不安は感じなかった。
「良かった…………咲翔が無事で。父さん、何もしてやれなくてすまんかった」
「葵音ちゃんも、迷惑かけてごめんね。でも、ありがとう。咲翔を支えてくれて」
「迷惑だなんて思ってないですよ。逆に、咲翔が守ってくれて…………嬉しかったです」
部屋の中に、不安という感情は無かった。
安堵、嬉しさ、しか無かった。
葵音を送るために、門を出た。送迎用の車が止まっていたが、葵音が拒否をした。
「……咲翔、家までついてきて欲しい」
「分かった」
交通量の少ない道を2人で歩く。これからは、毎日通る道。言葉は無い。けど、自然と手を繋いでいた。
それは、打ち明けた公園まで続いていた。
「……咲翔、これからも一緒に登校してくれる?」
「……もちろん。途中からにはなるけど、一緒に登校する」
一緒に登校する距離は短くなる。けど、無いより1億倍、いや、価値のつけられないほど楽しい。
「……私ね、もう幼馴染じゃいれないかもしれない」
「え…………?」
もしかして、葵音の方にも何かあったのか…………?
そう思うと、喉に唾が張り付く。
握っている手が震えてしまう。
「…………私、咲翔のこと好きになっちゃった」




