第59話 過去
次の日も同じところで作戦会議をした。主に、情報収集。手分けして色々なサイトから探した。
「全然、出てこないね」
「すごい人ってことはなんとなく分かったけど、生い立ちとかが全然出てこん…………」
「それが、一番知りたいことなのにね…………」
「…………三明さんが、何か知らないか聞いてみる」
「分かった」
空き教室を出た。ほとんど、校舎には人が居ない。
教室に残っている人もまばらだ。隣には、入学式で友達が出来るか不安になっていたときと、同じ顔をした葵音。
もう二度とこの顔にさせない。
門をくぐる。玄関近くの庭園には、ほとんど花は咲いていない。
きっと、郭地町の家でも同じことが起きているだろう。
「三明さん、ちょっと良いですか?」
「咲翔様、なんなりと」
「一城康俊の生い立ちについて、何か知っていることはないですか?」
三明さんの体が動いていない。初めて一城康俊に会った時と同じように、隠せていない。
「…………では、こちらに」
三明さんは、いつも使用人さん達が出入りしているところに入っていった。
入った瞬間は、空気が変わったような気がしたが、またすぐに空気が戻る。
そのプロ意識に驚きもない。慣れてしまったのだろう。
小部屋に通される。とは言っても、会議室みたいな感じだった。
三明さんが、イスを引いてくれる。それにすら慣れてしまった自分が怖い。
「…………わたくしは元々、康俊様のメイドでした。康俊様が幼き頃から、担当しております」
新事実だった。とてもじゃないが、三明さんがそこまで年を取っているようには見えない。
「康俊様が学長の席を降りられたのを機に、こちらのメイド長を務めさせていただいております。…………康俊様はよくわたくしを呼んで、悩んでおられました」
悩む…………。厳格な人だと思っていたけど、意外とそういうものなのか?
「私の改革は正しかったのか、私の選択は間違っていなかったのか、と」
「康俊さんのお父さんも学長と聞きました。子供の頃の後悔は言ってなかったんですか?」
「…………康俊様も、時期や関係性は違えど、咲翔様のような思いをされてきました」
…………やっぱり。
「康俊様はお生まれも邸宅でした。邸宅でずっと過ごしておられます。ですので、咲翔様のような既存のご友人などを失うということは、ありませんでした。しかし、ご友人と許嫁の移り変わりが激しかったのです」
「移り、変わり…………?」
「はい。基本的に、大学側が許可した者のみを友人とします。最初は、ご友人が入れ替わるだけでした。理由は、わたくしも存じ上げません。しかし、咲翔様のように心を閉ざされたことがございました」
「…………同じ思いをしたってことですか?」
「それに近しいかと。とある許嫁様がおられました。確か、最初の許嫁様だったかと。…………康俊様はその許嫁様に、本当の恋をされておられました。わたくしに幾度も相談をしておられました。どのようにすれば、許嫁様を楽しませられるか、と」
「まさか…………」
「その、まさかでございます。…………許嫁様が変わることになってしまったのです。基本、このようなことはございません。しかし、許嫁様の方に何かあられたのでしょう。…………そこから、心を閉ざされました」
心を閉ざして当たり前だ。政略結婚じゃない、本当の恋。そこまでのプロセスは政略結婚みたいになってしまったけど、本当の恋が出来た。
けど、それが破棄された。大人の都合で。
「回復されても傷は大きかったようです。今の奥様と打ち解けるにも時間がかかっておられました」
「…………ありがとうございます」
「…………一つ、よろしいでしょうか?」
「はい」
今の三明さんは、ここの使用人さんとは到底、思えなかった。
「康俊様を見てきたからこそ、咲翔様には同じ思いをされて欲しくありません。メイドの立場ですが、そう思っております」
…………三明さんは、気にかけてくれていたのか。
だから、他の使用人さん達よりも感情が出ていたのか?
「…………ありがとうございます。絶対に、納得のいくように説得します」
「お力になれることがありましたら、なんなりとお申し付けください」
三明さんのお辞儀だけは、どこか頼もしく感じられた。




