第46話 交渉
土曜日、平日はずっと寝不足だった。危うく、授業中も寝そうになった。自分にしては珍しく、10時ぐらいまで寝ていた。
「すぐにお迎えを!!」
廊下が騒がしい。何かあったのだろうか…………?
いつもの使用人さん達の声じゃない。
「……おはようございます」
「咲翔様、おはようございます」
「あの…………何かあったんですか?」
「実は、急遽、前学長の一城様がいらっしゃることになりまして…………」
三明さんは、明らかに焦っていた。いつものように薄っすらと出ていない。完全に出ていた。
「前学長…………」
「咲翔様、お着替えをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「…………分かりました」
着替えを渡された。シワ1つない、私服。落ち着くようで、落ち着かない。
「あの…………前学長に会うことって出来ますか?」
「申し訳ありませんが、お会いすることは…………」
「どうしても、話したいことがあるんです」
「一城様の目的が、分からない以上…………」
「この通りです!!」
俺は、土下座をした。おじいちゃんに明かされたときにされたような、土下座。
「頭をお上げください、咲翔様!!」
「お願いします!!」
絶対に頭を上げない、許可されるまで。
この機会を逃したくない。もしかしたら、成功するかもしれない。
「…………承知致しました。その代わり、わたくしも同行させていただきます」
「…………ありがとうございます!!」
廊下の途中に、客間があった。他の部屋よりも重厚な扉。アニメだったら、魔王が居てもおかしくない。
「準備はよろしいでしょうか?」
「はい」
――コンコンコン
「失礼いたします。三明でございます。お時間はよろしいでしょうか」
「良い。入れ」
「失礼いたします」
前学長は、おじいちゃんと同じ年齢に見えた。
明確に違うのは、ガタイが良いことぐらい。
あと、オーラが違う。
「君が、杏堂咲翔くんか。ちょうど、君に用事があった」
「…………その前に、こちらからよろしいでしょうか」
「構わん」
無愛想だ。けど、怒っているようには見えない。
なんというか…………この邸宅の使用人さん達に威厳を足した感じだ。
「……まず、猶予をいただきありがとうございます。この邸宅に住みます。許嫁に関しても拒否しません。せめて、友人関係のリセットだけは、お許し頂けないでしょうか」
自分でもびっくりするほど、スルスルと言葉が出た。土下座でもなんでもしてやる。
「ダメだ。伝統は守ってもらわないといけない。もし、伝統を無視するのなら君が入学出来なくなるぞ。もちろん、君のおじいさんも、学長どころかこの大学の職員ですら無くなる」
「お願いです。私は、祖父の研究熱心なところを自分のせいで潰したくありません。でも、友人のことも悲しませたくありません」
「全ては強欲だ。この世は犠牲の上で成り立っている。それは、分かるだろう?学長になりたい人は他にも居た。その上で、君のおじいさんが学長になっている。それは、おじいさんも分かっていることだ。」
「…………」
「あの……!!」
「三明、どうした?」
「いえ…………何もございません。割り込んでしまい、申し訳ありません」
犠牲の上に成り立っている…………確かにそうだ。でも、俺にとって、家族も幼馴染も守りたいもの。犠牲者なんかじゃない。けど、葵音のことを言ったら、葵音にまで影響が出てくるかもしれない。
「君は、城洛大学現学長、杏堂雅史の孫だ。それを自覚しなさい」
「…………っ、」
「それを分かっている上で、友人を優先するのならしたら良い。その代わり、雅史くんにこの1週間の代金を支払い、辞めてもらわないといけないな。それと、雅史くんからは1週間と聞かされていたかもしれないが、もう1週間滞在してもらう。勉強道具も、持ってきている」
「…………失礼いたします」
…………。
「…………咲翔様」
…………誰とも話したくない。
「…………」
…………もう、どうでもいい。




