第44話 必要なもの
朝、教室には誰も居なかった。黒板には、無機質に1枚の紙が貼られていた。…………選挙結果だ。
――会長 杏堂咲翔 信任
当選したのか…………。多分、あの応援演説が無かったら、不信任で再選挙が行われていた。
「咲翔、信任されてたね…………」
「うん…………」
「…………イヤ?」
「…………イヤじゃない。けど、何か違う気がする」
「…………そっか」
生徒会長、微塵も興味は無かった。なんなら、今でも興味は無い。けど、今のうちにならないといけない気がした。それだけの理由。この学校を変えたい。そんな大層な理由は、ない。
授業すら、耳に入ってこなかった。もちろん、友達との会話も。相槌出来ていたのが不思議なくらいだ。
生徒会の集まりは、明日。今日じゃないだけ、まだマシか…………。
「……咲翔〜」
葵音…………。無理して笑っている気がする。少なくとも、いつもの笑顔ではない。
「…………咲翔は、こっち?」
「うん…………」
葵音が気を遣ってか、建物の影に寄ってくれた。よく使われている通学路からは、死角になる場所。
「咲翔、無理しないでね?」
「…………うん。葵音こそ」
「…………私、咲翔が居ないと不安。今日の朝も、ずっと不安だった…………」
「葵音…………」
…………俺だって、不安や。けど、葵音が不安な方が気になる。
…………もう、洗濯の手間とか知らん。涙なんか、濡れるのと何ら変わらん。
――ギュッ
「…………咲翔」
「まだ、決められん。けど、どうにかしてみせる」
「咲翔…………うれしい」
…………温かい。けど、今のままおじいちゃんを優先すれば、もう葵音とは会えないかもしれない。少なくとも、側には居られない。
「……咲翔、また明日ね」
「……うん」




