第39話 豪邸
公園から戻った。根本的には解決はしていない。けど、少し心が軽くなった気がした。
「…………咲翔、葵音ちゃんに言ったのか?」
「うん…………一から十まで言った」
おじいちゃんは、驚くことすらなく会話を続けた。
「そうか…………なんて?」
「…………側に居てほしいやって」
「咲翔は、どうしたい?」
「…………まだ、決められん」
「…………急で悪いんやが、明日祝日やろ?邸宅の内見に行って欲しい。それで、この1週間だけ泊まって欲しい。じいちゃんはちょくちょく、泊まっていたんやが、元親くんと千夏、咲翔はまだやろ?」
「うん。場所すら知らんけど…………」
「もし、葵音ちゃんがいけるのなら、葵音ちゃんも連れてってもええ」
「……分かった。聞いてみる」
スマホを取り出した。いつも通り、メッセージアプリを開く。最後にメッセージでやり取りしたのは、ついさっきの呼び出しだ。
文字を打つ。時々、指が止まる。
打ち終わった。即、既読が付く。
「明日、何も無いからついて行く」
◇ ◇ ◇ ◇
次の日、示されたのは城洛町の一等地からは少し離れた場所だった。
しかし、地図を見るに一つ一つの土地は大きかった。
「ごめんね、葵音ちゃん。わざわざ、祝日に」
「全然、大丈夫です」
咲翔の家の前には、咲翔、千夏、元親、葵音が待っていた。すると、家の前に、見たことも無いような高級車が止まった。
「「「「これに乗るの…………」」」」
満場一致だった。そりゃあ、そうだ。
こんな高級車、一生に一度見れたらラッキーぐらいのものだ。
邸宅の前に着いた。間取り図自体は、おじいちゃんから見せてもらった。
けど、実際の邸宅は予想以上に大きかった。
…………球場何個分よ?
「…………デカいね」
「うん…………間取り図以上や」
「玄関まで結構遠いわよ」
「えらいことになったな」
玄関まで、色々な木々や草花が植えられていた。
松の木が生えていると思えば、その隙間から現れる苔に覆われた大きな石。しかし、管理されていなさそうではなかった。
玄関の近くには風防林のように、囲われた松の木の内側に、ベルサイユ宮殿をそのまま縮めたような庭園がある。
その間、誰も喋らなかった。門の近くの和の庭園から、コオロギの鳴き声が聞こえてくるだけだった。
「ようこそ、いらっしゃいました。わたくし、この邸宅のメイド長を務めます、三明杏桃と申します。1週間、よろしくお願いいたします」
「「「よろしくお願いします…………」」」
そこには、スラッとした文化祭で1年1組がやっていた以上のメイド服を纏った女性が立っていた。
「では、各お部屋にご案内いたします。新口葵音様は、咲翔様のお部屋にご案内いたします」
「わ、分かりました…………」
俺たちは、三明さんについて行く。
廊下には、アニメや映画などでしか見ない彫刻や模様が目に入る。
「(これ、本当に一大学の学長への待遇なのかな?)」
「(な、明らかに高待遇な気がする)」
「城洛大学は、長い歴史があります」
「「え…………」」
小声で喋っていたはずだ。なのに、聞き取られていた。
「城洛大学は今年で創立200年以上になります。正確な起源は不明ですが、元になる私塾が江戸時代初期にはあったとされています。また、その創始者がこの地域を治める大名の元重臣だったとも伝えられています。そのため、優秀な儒学者が集められ、創始者が亡くなったあとも、社会的に地位の高い人々が学長になり続けた名残で、今も続いているのです」
「そうやったんや…………」
「……すごい人になっちゃったんだね。咲翔のおじいちゃん」




