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普通の大学教授の祖父だと思ってたのに  作者: 綿ダッコ
第4章〜崩壊〜

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第36話 痛み

 「…………」


 咲翔は、黙って目を逸らす。

作戦会議の時と同じ逸らし方。


「仲直りしたから言いたくないけど、文化祭の前日だってそう。最近、おかしいって」


 疑いも、怒りもない、ただ悲しそうな眼差し。作戦会議の時とは違う。


「…………言えん」


「…………私、咲翔が理由言ってくれるの待ってるから」


 咲翔の家の前から離れる。その背中は、どこか頼ましくもあり、悲しくもあった。


「…………ただいま」


 家族の関係は変わらない。だが、最近の空気は明らかに変わっていた。千夏と雅史が会話を交わすことは稀、唯一普通にしようとするのは咲翔だけであった。


「…………選挙はどうだったの?咲翔」


 リビングにいたのは、母さんだけだった。

父さんとおじいちゃんは、職場なのだろう。


「とりあえずは…………葵音も協力してくれた」


 選挙に出馬するのは、家族全員が知っている。だが、その全容を知るのは、葵音だけだった。


「そうなのね。葵音ちゃんが…………無理して出馬したんでしょ?」


 無理していることは、葵音にすら言っていない。

隠していたのに、葵音にも母さんにも見透かされた。


「…………なんで、分かったん?」


「報告してくれたときから、分かってた。本当に興味がある目じゃないって」


「…………さすが、母さん」


「咲翔…………前も言ったけど、あなたの人生はあなたのもの。だから、誰にも遠慮せずに生きなさい」


 誰にも遠慮しない。その言葉に、責める意味は何も無い。ただ、俺のことを思ってくれている言葉。けど、どこか引っかかる。


「…………分かった。勉強してくる」


「無理したらダメよ」


「……うん」


 自室の扉を開ける。最近、鋼鉄の扉のようだ。

ただの木製の扉。音も木製。

けど、木製とは信じがたい。


 隠しきれてなかったんやな…………。もうこれ以上、悲しませないようにしようって、思ったのに…………。

本当にどうしよ…………言ったら、さらに悲しませる。

けど、言わないと、葵音の気持ちを踏みにじるのも事実…………。

どうしたらええねん!!


 掻きむしった。ただただ、頭を掻きむしる。

爪が頭皮に当たる感覚だけがあった。けど、痛みなんぞ一ミリも感じない。


 はぁ…………。

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