第29話 明日だけ
…………こんなことになるなら、しなきゃ良かった!!
同じ頃、咲翔は高校近くの閑静な公園に来ていた。
咲翔の蹴った石が、看板に当たって乾いた音だけが、周りに響いた。
泰斗はすぐ気付くし、葵音には誤解されるし…………。こんなことをした俺が間違いやった――
――昨日の夜
「千夏の様子見てくるわ」
元親は、リビングの椅子から腰を上げた。
「…………答えを急ぐわけじゃないが、咲翔の気持ちはどうなんや?」
「…………葵音とは一緒に居たい。けど、おじいちゃんの気持ちも分かる。教授陣の態度を正したかったんやろ?」
「ああ、その通りや」
「だから、出来るなら両立したい」
「…………それは、無理や。じいちゃんも両立出来るならさせてやりたい。不自由を被るのは、じいちゃんだけで良い。けど、そう上手いことは出来ん」
「…………」
「けど、苦痛を減らす方法はある」
「苦痛を…………減らす?」
「もちろん、葵音ちゃんを優先するなら、してくれてええ。もし、じいちゃんのワガママに付き合ってくれるのなら、苦痛を減らすことは出来る」
「…………一応、聞きたい」
「…………葵音ちゃんだけじゃないが、徐々に距離を取るのはどうや?その期間だけでも、じいちゃんが足止めしたる」
「徐々に…………」
「そうや。特に葵音ちゃんと、一気に距離を取るのは難しいやろうから、明日一日だけでも実践してみたらどうや?」
「…………分かった。とりあえず、明日一日だけやってみる」
徐々に距離を取る、か。たしかに合理的やけど…………。
咲翔は、リビングの椅子から重い腰を上げ、自室に戻ろうとした。
「咲翔…………」
「母さん…………大丈夫?」
フラフラしてるやん…………。
「うん…………咲翔こそ大丈夫?」
「俺は…………大丈夫。色々、模索してみる。おじいちゃんも葵音もどっちも大事やから」
「…………そう。ごめんね、咲翔…………。お母さんが頼りないばかりに…………」
ギュッと抱きしめられる。安心、できる。できるけど、不安も感じる。
「母さん…………俺は大丈夫やから。ほら、立てる?」
「…………ありがとう」
千夏をリビングのソファに座らせた咲翔は、自室に戻った。
…………とりあえず、明日だけ。明日だけやってみて、考えよう。




