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神薙 ~日本神話×ロボット。怪獣を救う神機の物語~  作者: さく


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30話 答え 30-3

純粋種・焔が発する噴き上がる炎の渦により、周辺の原生林は一瞬にして炭化し、地獄のような焼け野原へと姿を変えていく。

その破壊の波は、戦場から遠く距離の離れた場所に陣取るレイの武尊の目前にまで、恐ろしい速度で範囲を広げていた。


この防衛線を突破されれば、その後方には人間たちの暮らす街がある。

『くっ……! 奴の暴走を止めないと本気でヤバいぞ!』

レイはメインモニターを埋め尽くす圧倒的な業火の光に目を細め、歯を食いしばりながら叫んだ。


各機が、大地から幾つも噴き上がる凶悪な炎の渦を必死の機動で回避していく。

『もう、四の五の言わずにやるしかねえ!』

豪は武尊弐型に、残された大型マシンガンを強引に構えさせた。


『ちぃっ……!』

だが、ランダムに次々と噴き上がる炎の渦の障壁が邪魔をして、本体への攻撃の隙が全く与えられない。

苛烈な炎の檻に、誰もが攻め手を欠いていた。


仲間たちの緊迫した無線が、凪のコックピット内に絶え間なく響き渡る。

(どうする……? )

凪もまた、機体が焼き溶かされそうな熱風の中で炎の渦を紙一重で回避しながら、この最悪の状況を見極めようと必死に目を凝らしていた。


「オ、ネエサマ……ナゼ……」

轟音の隙間から、そんな焔の掠れた声が聞こえた気がした。


(何故……?)

凪の脳裏にその言葉が過り、操縦桿を握る手がわずかにブレたその瞬間——凪の武尊のすぐ真横を、一機の武尊がバーニアの光を引きながら猛烈な速度で駆け抜けた。


『 凪くんの声を聞くの!! そして……心の中にあるその言葉、その迷いを……全部吐き出して!!』

凛だった。


かつて、凛自身も怪獣に取り込まれ、答えのない暗闇に囚われた。

そんな自分を救ってくれたのは、茜の声だった。


だからこそ、今度は自分が——。

凛の武尊は炎の渦の真っ只中へと飛び込み、純粋種・焔の至近距離まで迫った。


◇


『凛!!』

茜の悲痛な叫びが、凛のコックピットに響き渡る。


(自分でも、無意識だった。凪くんの友達……焔くんの気持ちが、痛いほど分かっちゃったから。だから私——)

凛は残る恐怖を必死に押さえ込み、荒れ狂う炎の渦の間を縫うようにすり抜けながら、純粋種・焔の目の前へと果敢に躍り出た。


「ナ、ゼ……ナ……ゼだ……」

周囲に炎の渦を撒き散らしながらも、焔の魂が引き裂かれそうな声が、絞り出されるように聞こえてくる。


「そうよ、吐き出して!」

凛は必死だった。

無線からは、自分の無茶を心配する茜や豪隊長たちの怒号が聞こえている。


しかし——今の自分にできるのは、この化け物の奥にいる青年を助けるために、叫び続けることだけだった。

「全部、吐き出すの!!」


「オ……」

純粋種・焔が、絞り出すように何かを呟いた。

その瞬間、それまで凄まじい轟音を発して荒れ狂っていた炎の渦が、嘘のように掻き消えた。張り詰めた夜の空気のなか、一瞬にして辺りが不気味な静寂に包まれる。


「オ、ネエサマ……ナゼ……」

凛は肩で激しく息をきらせたまま、じっとその動向を見守る。


焔の頭の中に、ミズホノメと澪が燃えている、神話のあの日の光景が過る。

「オカアサマ……っ!!」


凛の魂の叫びに呼応したかのように、純粋種・焔の背中の皮膚が、メリメリと音を立てて大きく裂けた。

その裂け目から、灼熱のマグマと共に、体内で炎の核となっていた“何か”が激しく溢れ出る。

次の瞬間、純粋種が天を仰いで悲痛な咆哮をあげた。


『焔——っ!!』

怪獣の背中から弾き出されるようにして、燃え盛る炎の地表へと一人の男の身体が転がり落ちる。それを見た凪は叫び声をあげ、すぐさま愛機を動かして焔の元へと近づこうとした。


しかし——。

『お、おい! 凪、待て!!』

豪隊長の動揺に満ちた、緊迫した無線が全員のコックピットに叩き込まれた。


凪、凛、茜、レイ、そして豪。

5機の武尊の視線が、一斉に中央の純粋種へと釘付けになる。


焔を失った純粋種は、体内の膨大な神話の火を完全にコントロールできなくなり、まるで巨大な風船のように、その巨躯を不気味に、禍々しく膨らませ始めていた。

臨界点を超えたエネルギーが今にも暴発しようとしていた。


◇


純粋種は、自らの血液を流すが如くマグマを地面に滴り落としながら、制御できない神話の炎によってその巨躯を不気味に膨らませ続けていた。


『あれ……! あの純粋種、体の中がマグマみたいになってる……!』

茜の、驚きと焦りの混じった通信が無線に飛び込んでくる。


『それだけじゃない……。』

レイはメインモニターを切り替え、映し出されたサーモグラフィーの真っ赤に染まる画像を見つめながら、努めて冷静に答える。


サーモグラフィーに表示された温度の数値が上昇していき、限界測定を超えて警告アラームを発した。

『奴の体温も異常な速度で急上昇してやがる。このままじゃ確実に暴発するかもしれん……!』


『どうする……? このままじゃ、周囲の山ごとすべて吹き飛ぶぞ……!』

豪は最悪の結末を回避すべく、必死に打開策を探る。


しかし、彼が考えている間にも、純粋種からとめどなく溢れ出るマグマは、周囲の地表を瞬く間に埋め尽くしていった。

「焔!!」

凪が焦燥に駆られながら純粋種の足元に目を移したその時、じわじわと広がる灼熱のマグマに呑まれる寸前の一人の男の身体が、はっきりと視界に入った。


『任せて!』

膨らみゆく純粋種に一番近い位置にいた凛が、躊躇うことなく一気にペダルを踏み込んだ。

凛の武尊が、今にもマグマの海へと呑まれそうになっていた焔の元に向かって一直線に突っ込んでいく。


『くっ……!』

凛の短い息が無線から漏れる。

凄まじい熱風が襲いかかる中、凛の武尊はその大きな金属の掌で、焔の身体を土ごと優しく掬い上げ、間一髪のところで救出した。

そのまま背部バーニアを最大出力で吹かし、後方の街に向かって大きく跳んでいく。


『焔くんは任せて! 凪くん、あとはお願い!』

凛のその力強い言葉に、凪は一瞬だけ安堵した。

だが、それも一瞬のこと。凪は再び、臨界点を超えようとしている純粋種へと向き直る。


『で、一体どうするんだ!?』

豪の切迫した声に、凪も一瞬、押し黙る。


(——マグマか。こんな純粋種、まともに攻撃したってどうすれば……)

その時、凪の脳裏に、あの世界の最果てのように静かで美しかった「お兄様の湖」の情景が鮮烈に過った。


「こりゃ……また、後でめちゃくちゃ怒られるな……」

あまりにも突飛で、何より不敬極まりない作戦だった。

成功したとしても、後で何を言われるか分からない。凪は別の意味で身震いした。


『え……?』

その凪の、ボソリと呟くような声が聞こえたのか、この緊迫した戦場にはあまりにも不釣り合いなその言葉に、茜が怪訝そうに聞き返してくる。


「茜さん……湖ですよ。あの湖に、あいつを連れていくんです」

凪はコックピットの熱気とはまた違う、冷や汗が背筋を流れるのを感じた。


「ああ……そうか、水……! 冷却すれば、暴発を抑えられるかもしれない……!」

茜も凪の意図を察したように、メインモニターの向こうで口角を上げた。

この近くにある、あの莫大な水を湛えた巨大な湖——あそこしか、この大質量を冷やし切れる場所はない。


「時間がありません! やります!」

凪は覚悟を決め、破滅の光を放ちながら膨らむ純粋種の、その灼熱の懐へと躊躇なく飛び込んでいった。


『おい! 凪、何をする気だ!!』

豪の混乱した叫び声が無線に響き渡る。

しかし、凪は答えなかった。


草薙の剣を胸の前に構えると、その刀身から神聖な光が溢れ出し、武尊の全身を包み込んでいく。

「頼むぞ……澪ちゃん!」


凪はペダルを一気に踏み込んだ。

そして、マグマが滝のように流れ落ちる純粋種の腹部へと、真っ向から飛び込んでいった。

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