30話 答え 30-2
「何だこの火力は!」
豪は、大気を歪めながら迫る火球を紙一重で避けながら、声を限りに叫びをあげた。
それは武尊弐型の硬質装甲すら一瞬で融解させる勢いの火力であり、もし一撃でも直撃したらひとたまりもないことは、戦わなくとも直感で理解できた。
豪の武尊弐型の向こう側では、茜の武尊が絶え間なく大型マシンガンを純粋種・焔に撃ち込んでいく。
『くっ……! こんな規格外の能力、聞いてない……っ!』
焔の宿した神話の火によって、純粋種の表皮はマグマのようにドロドロとした超高温の熱を帯び、手の付けられないほど強固に変貌していた。
茜が放つマシンガンの弾丸は、その不気味な表皮に命中したそばから、虚しく火花を散らして弾かれていく。
離れた位置で固定砲台となったレイの武尊も、その冷静な眼光で表皮の隙間に走る、赤く発光する肉の継ぎ目を正確にスナイパーライフルで撃ち抜いた。
『……これならどうだ!』
超高出力の弾は、寸分の狂いもなく表皮の間を擦り抜けて体内へと突き刺さった。
しかし、激しい蒸気を噴き上げるだけで、純粋種・焔には有効なダメージを与えられた反応が全くない。
「どうなっていやがる!」
豪が忌々しそうに独りごちたその瞬間、純粋種・焔が太い尻尾を茜の武尊めがけて猛烈な速度で振り抜いた。
茜は背部バーニアを逆噴射させ、それを辛うじて回避する。
敵の意識が茜に向いたその一瞬の隙をチャンスとばかりに、豪は武尊弐型の腰部ラックから実体剣を引き抜いた。
「これはどうだぁっ!」
スラスターを最大出力で吹かし、純粋種・焔の首筋に向かって剣を豪快に振り抜く。
やはり表皮は相変わらず岩盤のように硬いため、豪はその僅かな表皮の「隙間」を狙って、力任せに剣を深く突き刺した。
純粋種・焔が、鼓膜を裂くような悲痛な咆哮をあげる。
「——っ、ヤバい!」
本能的に危険を察知した豪は、すぐさま突き刺した剣を力任せに引き抜いた。
抜いた瞬間、豪の目が驚愕に見開かれる。
硬質金属で作られていたはずの剣の刀身は、怪獣の体内の異常な高温によって、まるで飴細工のようにドロドロに溶け落ちていたのだ。
さらに、傷口から血飛沫のように激しく噴出したのは、赤黒く脈打つ生のマグマだった。
四方にぶち撒けられた灼熱の液体は、周囲の原生林に垂れるや否や、一瞬にして爆発的な炎で木々を燃やし尽くしていく。
豪は、半分に溶けて失われた無残な刀身を見つめた。
「近接武器も通じねえ……こんな化け物、一体どうすりゃいいんだ……」
『豪さん! 皆……っ!』
絶望的な空気が戦場を支配しかけたその時、各機のメインモニターに小ウインドウが開き、後方の夜空が映し出された。
炎のカーテンを切り裂いて飛んでくるのは、再び立ち上がった凪の武尊、そしてそのすぐ後ろにぴったりと従う凛の武尊の姿だった。
「遅いぞ、お前ら!」
豪が怒鳴るようにスピーカーを開く。
『すみません! お待たせしました!』
そう力強く叫ぶ凪の武尊は、凄まじい制動をかけて豪の武尊弐型の真横へと綺麗に並び立った。
「おい凪、こいつは本気でヤバいぞ。どうする?」
豪はあえて、隣の青年に作戦を求めた。
二年前、誰よりも最前線で怪獣のコアと対峙し、その特性を知り尽くしている凪の見地を信頼しているからこその問いだった。
「……分かりません。だけど——絶対に、何とかします!」
凪のその力強い言葉に呼応するように、5機の武尊のカメラアイが、一斉に灼熱の純粋種・焔へと向けられた。
今ここに、豪の武尊弐型、そして凪、茜、レイ、凛の駆る4機の量産型武尊。
傷だらけで、万全とは程遠い。
それでも、互いの信頼で繋がった5機の武尊が、今ここに揃い踏みしたのだった。
◇
(戦場に立った。だけど、俺が何をすればいいのか、本当はまだ分からない)
凪は、いまだに熱気の残るコックピットで、小刻みに震える手を操縦桿にかけ、目の前の純粋種・焔を真っ直ぐに見据えた。
(いつもそうだ。いつだって正解なんて分からなくて、分からないからがむしゃらにやってきたんだ……!)
純粋種・焔が、周囲の大気を激しく巻き込むように大きく息を吸い込んだ。
その半透明な腹部の火袋が、爆発寸前の危険な白色へと眩しく光り出す。
『特大の火球が来るぞ! 各機、散開しろ!!』
豪の地鳴りのような怒号が響いた瞬間、5機の武尊は四方へと弾けるように退避した。
その中心を業火の如く、すべてを焼き尽くす特大の火球がすり抜け、後方の山腹で凄まじい大爆発を起こした。
「豪さん! 俺が焔を止めます! フォローをお願いします!」
叫ぶと同時に、凪は一気にフットペダルを床まで踏み込んだ。
凪の武尊が、メインスラスターの放熱の火花を激しく散らしながら、超高速で純粋種・焔の眼前にまで肉薄する。
『おい! 各機、凪の背中を死ぬ気でフォローしろ!!』
豪の命令が下ると同時に、茜と豪のマシンガン、そしてレイの試作型スナイパーライフルが、純粋種の強固な表皮めがけて猛烈に撃ち込まれ、煌めく火線の壁を作っていく。
「焔!! お前は一体、何の答えを求めてるんだ!? さっきも聞いたぞ!!」
外部スピーカーの出力を最大にして、凪は咆哮の如く焔に向かって叫んだ。
純粋種・焔の赤い目が、こちらへと鋭く向けられた。
「ナギ……コタエ……!」
怪獣の巨躯が強引に凪のほうを振り向き、その裂けた大口から凝縮された破滅の火球を至近距離で吐き出した。
「うおおおっ!」
凪は力いっぱいペダルを蹴り込んで、垂直に天へと飛び上がる。
眼下をかすめる超高熱の光線と強烈な熱風を感じながら、凪はさらに声を張り上げた。
「何だか知らないがな——俺は、そんな答えなんて持ってねぇよ!!」
その瞬間、純粋種・焔の動きがピタリと止まった。
『……何だ? 攻撃が止まったぞ……?』
豪たちの武尊も、その異様な静寂に合わせて一斉に動きを止める。
「当たり前だろ!! 答えがあったから、俺たちはこれまで行動できたわけじゃないんだ!!」
凪の声が、静まり返った森に響き渡る。
「答えがなくたって、正解が分からなくたって……それでも前に進まなきゃいけない時だってあんだよ!!」
その言葉に呼応するように、凪の武尊が握る『草薙の剣』が、内側から淡く神聖な輝きを放ち始めた。
草薙の剣の光が持つ温もりが、武尊を通して凪の心にまで伝わってくる。
そのぬくもりに触れた瞬間、二年前のあの燃え盛る大穴の前での光景が、鮮烈に凪の頭を過った。
「焔!! 二年前のあの時の……澪ちゃんの最後の言葉、覚えてるか?」
「見ろ!!」
凪はまばゆい光を放つ草薙の剣を、天高く振り上げた。
純粋種・焔の赤い目が揺らめいた。
「オ……ネエサマ……!」
「お前がそうやって苦しんでるのを見て、澪ちゃんも悲しんでるんだ……! 焔、もう終わりにしよう。俺たちと一緒に、あの神社に帰ろう!!」
草薙の剣の光は、まるで澪の優しい意志がそこに宿ったかのように、夜の帳の中でゆらゆらと温かく、そして力強く揺らめいていた。
「ワカラナイ……! ワカラナイ、ワカラナイ……!!」
純粋種・焔は、頭を抱えるようにして、ガタガタと震えるその巨体を小さく丸めていく。
焔は、苦しみを振り払うかのように、内に籠もった莫大なエネルギーを一気に解放した。
周囲の大地から幾つもの巨大な火の渦が、間欠泉のように一斉に噴き上がった。
地獄のような紅蓮の暴風が吹き荒れる。
5機の武尊は、足元から容赦なく噴き上がる凶悪な炎の渦を、紙一重で必死に回避した。
『凪! やべえぞ。奴のエネルギーが完全に暴走しやがった!』
豪は機体を激しくスライドさせて火線を躱しながら、無線に向かってそう叫んだ。
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