4話 悪意の矛先 4-1
男は、 いつも通り会社へ向かっていた。
けれど、 その足取りは重い。
会社へ近づくたび、 身体が重くなっていく気がする。
「はぁ……」
男は、 小さくため息を吐いた。
憂鬱だった。
会社へ行きたくない。
けれど、 行かなければならない。
「よし……!」
男は、 会社の前で頬を叩く。
無理やり、 自分を奮い立たせる。
そして、笑顔を作った。
自分を偽るように。
凪は、 両親へ勇斗のことを話していた。
もちろん、 本当のことは言えない。
けれど、あの怪獣事件の最中。
確かに、 あの母親は勇斗を託した。
「あの子を、 一人にはできない」
「うちで育てることって、 できないかな……?」
凪は、 拳を強く握る。
責任を感じていた。
母を奪った、せめてもの償いだった。
昨日、 澪にも言われた。
“凪のせいじゃない”
と。
それは、 凪自身も分かっている。
けれど、どうしても、 割り切れなかった。
勇斗は今、 施設へ預けられている。
怪獣事件の後、凪は、 両親と共に勇斗を託したのだった。
凪は、 自室へ戻っていた。
両親の返事は、 NOだった。
当然だ。
突然現れた赤ん坊。
しかも、 怪獣事件に巻き込まれた子供。
両親が、 責任を持てないと言うのも理解できる。
けれど、
「……くそ」
凪は、 ベッドへ倒れ込んだ。
どうしようもない。
頭では分かっている。
それでも、胸の奥に残る感情を、 凪は消化できなかった。
澪は、 神社から町を見下ろしていた。
町は、 今も復興作業に追われている。
怪獣の被害。
根の正体。
御母様。
そして、凪を、 巻き込んでしまったこと。
澪の胸の中もまた、 整理できない感情で溢れていた。
「凪には…… ああ言ったけど……」
澪は、 小さく俯く。
「気にしてるよね……」
凪の表情を思い出す。
それなのに、
“凪のせいじゃない”
なんて、
無責任だった。
澪は、 ぎゅっと膝を抱え込む。
「どうしたら…… いいの……?」
弱々しい声。
視線の先には、 傷ついたもう一体の神機。
(守り人……)
澪は、 そっと目を伏せた。
(御兄様……)
澪……。
(御兄様……?)
優しい笑顔。
逞しい背中。
いつも、 澪を守ってくれていた。
澪の言葉を、 誰よりも信じてくれた人。
そして、澪の神託を、 人々へ伝える役目を担っていた。
――轟音。
崩れる大地。
咆哮。
「ここを…… 封印せねば!」
傷だらけの神機。
片腕は砕け、 全身が傷ついている。
それでも、守り人は、 剣を掲げていた。
空へ描かれる光の紋様。
「澪……」
振り返る横顔。
「後の世は……」
光が溢れる。
雷鳴。
澪は、 ハッと顔を上げた。
「……早い」
その表情から、 血の気が引いていく。
「また…… 来るの……?」




