4話 悪意の矛先 4-2
男は、 仮面を被っていた。
上司への顔。
部下への顔。
顧客への顔。
いつも、 笑顔を貼り付けている。
けれど、心の中では、 ずっと大雨が降っていた。
休憩時間。
ふと、 ため息が漏れる。
「はぁ……」
突然、 胸の奥が沈んでいく。
涙が出そうになる。
けれど、 堪える。
男だから。
男は、 休憩室を出る前に笑顔を作る。
無理やり、 気合いを入れる。
そして、 扉を開けた。
そこには、嫌いな上司がいた。
「あれ……?」
いつもなら、 笑顔でやり過ごせる。
なのに。
怒りが、 抑えられない。
「俺…… どうしちゃったんだ?」
雷鳴。
凪は、 自室で雷鳴を聞いた。
その瞬間、心臓が大きく跳ねる。
血が、 一気に全身を駆け巡る感覚。
動悸が激しい。
理解してしまった。
何が起きるのか。
「来る…… のか……?」
遠くで爆発のような音が響く。
瓦礫が崩れる音。
「行かなきゃ……!」
凪は、 反射的に立ち上がろうとする。
けれど、身体が動かなかった。
「っ……」
手が震えている。
「ビビってる…… のか……?」
澪は、 遠くに現れた怪獣を見つめていた。
無数の根。
それらが絡み合い、 巨大な怪獣の姿を形作っている。
けれど、前回とは違った。
根の内側を、 水が流れている。
まるで、 血管のように。
「……っ」
怪獣の身体を巡る水が、 一箇所へ集まっていく。
次の瞬間。
圧縮された水流が、 一直線に放たれた。
轟音。
水は、 ビルの壁面を容易く貫通する。
遅れて、 建物が崩れ落ちた。
「くっ……!」
澪の身体が、 反射的に動く。
胸元へ手を伸ばす。
「ない……」
勾玉がない。
澪は、 ハッと目を見開いた。
「凪……!」
勾玉は、 凪へ渡したままだった。
凪は、 首に掛かった琥珀の勾玉を握る。
「俺に…… できるのか……?」
葛藤。
脳裏に、 あの母親の顔が浮かぶ。
自分が、 手をかけた人。
「っ……」
涙が、 止め処なく溢れてくる。
動け。
動けよ……!
その時だった。
「……凪!」
澪の声。
凪は、 反射的に涙を拭った。
澪の声が、 直接心へ響いてくる。
(ごめんなさい…… こんなこと、 背負わせて……)
凪には分かった。
澪も、 泣いている。
(でも…… お願い……)
(力を貸して?)
不思議と震えが止まっていく。
胸の奥に、 力が灯る。
(私も…… 一緒に背負うから……!)
凪は、 家を飛び出していた。
外へ出る。
遠くで、 怪獣の咆哮が響く。
凪は、 首に掛かった勾玉を握り締めた。
そして、空へ掲げる。
「来い……!」
その瞬間。
神社に立つ神機の目へ、 光が灯った。




