3話 知らなかったこと 3-2
雷鳴。
黒雷神は、 人気のない山中へ降り立った。
「土の」
その声に応えるように、 地面が盛り上がる。
現れたのは、 巨大な根に腰掛ける異形の老人。
「次の種をくれ」
黒雷神が、 急かすように言う。
「ホッホッホ…… 待て、待て」
土雷神が、 根を軽く叩く。
「若の。 実を持て」
「はーい」
軽い声。
次の瞬間。
黒い影が、 巨大な根を駆け上がっていく。
現れたのは、 少年の姿をした雷神。
若雷神は、 根から生った黒い実をもぎ取る。
そして、 それを黒雷神へ渡す。
「はいよ
そういえば、神機が現れたんだって?」
土雷神は、 細めた目で空を見る。
「儂らの復活に、 呼応しとるのかのう……」
「厄介じゃ」
黒雷神は、 受け取った種を見つめる。
「人間から悪意を奪い取れれば、 関係ない」
若雷神が飛び跳ねながら言う。
「人間の悪意って美味しいんだろうなぁ」
若雷神は無邪気だ。
土雷神は、 長い髭をゆっくり撫でた。
黒雷神が、 踵を返す。
「ホッホッホ…… 仕事熱心じゃのう」
「次の悪意も、 極上ならよいが」
三柱の雷神が、 不気味に嗤った。
凪は、 泣いている澪に、 何を言えばいいのか分からなかった。
「そんなことが……」
そんな言葉しか、 出てこない。
凪は、 澪をゆっくり神社の石段へ座らせた。
「俺は…… 巻き込まれたなんて思ってないよ」
凪は、 無理やり笑おうとする。
「俺から、 首を突っ込んだんだし」
けれど、胸の中が穏やかじゃないことくらい、 澪にはきっと伝わっている。
澪は、 俯いたままだった。
「ごめん……」
小さな声。
凪は、 すぐに首を横へ振る。
沈黙になる。
風だけが、 静かに吹き抜ける。
「あれだけじゃ…… ないんだよね……?」
「怪獣」
澪は、 俯いたまま小さく頷く。
「多分……」
「あの怪獣って、 何なんだ?」
「なんで…… 中に人間がいたんだ?」
凪は、 堰を切ったように問いかける。
けれど、澪は、 ゆっくり首を横へ振った。
「分からないの……」
「でも…… 私は怪獣と戦った……」
澪は、 静かに顔を上げる。
その視線の先。
もう一体の神機。
傷だらけの、 壊れた石像を、 悲しげに見つめていた。
「昔…… 私と一緒に戦ってくれた人がいた」
澪の見るもう一体の神機は酷く損傷していた。
「僕たちが乗った神機とは、違って…壊れてるね」
凪は澪の横顔を見る。
寂しそうでもあり、辛そうでもある複雑な感情がみてとれる。
「うん…」
2機の神機が怪獣と対峙していた。
人々は2機の神機を神のように崇め、戦いを見届けている。
「澪!」「はい!」
2機の神機は怪獣に斬りかかる。
完璧な連携で怪獣を翻弄し、守り人の神機がトドメをさす。
人々から歓声があがった。
しかしー
「澪……」
巨大な穴の前、守り人の神機が、 光に包まれていく。
「後は…… まかせ……」
伸ばされた手。
「何故、 怪獣が現れるのか……」
澪は、 静かに俯く。
「あの時から、 人間が中にいたのかは分からない……」
「でも……」
澪は、 ゆっくり拳を握った。
「また神話が、 始まるのかもしれない……」
澪の言葉だけが、 静かに境内へ残った。
人気のない街角。
黒雷神は、 一人の男を見下ろしていた。
酒臭い息。
荒れた足取り。
「くだらねぇ…… なんで俺ばっかり……」
男は、 苛立ったように壁を蹴る。
黒雷神は、 愉快そうに嗤った。
「良い悪意だ」
黒雷神が、 ゆっくり男の前へ降り立つ。
「……なんだぁ?」
男が顔を上げた、 その瞬間。
黒い種が、 胸へ押し込まれた。
「がっ……!?」
男が苦しげに胸を押さえる。
黒雷神は、 耳元で囁くように言った。
「次も…… 良い実りになるぞ」




