3話 知らなかったこと 3-1
怪獣との戦いから、 数日後。
凪は、 神社の境内に立っていた。
見上げる先には、 再び石像へ戻った神機。
あの日、 確かに動いていた巨人。
けれど今は、 何事もなかったかのように、 静かに町を見下ろしている。
凪の胸中は、 穏やかではなかった。
自分が、 人を殺したこと。
託された勇斗のこと。
そして、怪獣や神機。
現代ではあり得ないはずの出来事。
すべてが、 まだ現実感を持てない。
その背後には、 澪がいた。
澪もまた、 沈んだ表情で神機を見つめている。
勇斗の母。
御母様の記憶。
そして、 凪を巻き込んでしまったこと。
なにより、神話が 再び繰り返されようとしていること。
二人の間に、 言葉はなかった。
何を言えばいいのか、 分からなかった。
凪は、 ゆっくりと澪へ身体を向けた。
「何が…… 起きてるの?」
それが、 凪に言える精一杯だった。
何を聞けばいいのか、 分からない。
何を知るべきなのかも。
澪は、 しばらく俯いていた。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。
その瞳が、 真っ直ぐ凪を見据えた。
「大昔…… 戦いがあったの……」
しばらく沈黙が続く。
やがて、澪はゆっくりと話し始める。
「昔…… 偉大な女神がいたの……」
(御母様……)
澪の視線が、 遠くを見る。
「その女神は、 人々に色々なものを与えた……
実り。 水。 火……
生きるために必要なものすべて。
けれど。」
澪の表情が、 少し苦しげに歪む。
「人間は…… 欲深かった……」
「もっと…… 欲しがったの」
そして──
青銅の剣がぶつかり合う。
怒号が上がり、悲鳴が響く。
そこかしこで、 人々が争っていた。
石の槍。
あるいは鍬。
あるいは鎌を持って。
昨日まで、 畑を耕していた者たち。
それでも今は、 鬼の形相で何かを奪い合っている。
辺りは炎に包まれていた。
逃げ場なんて、 どこにもない。
その時だった。
神社の屋根を突き破り、 無数の根が現れる。
人々が一瞬静寂に陥る。
黒い巨大な影。
それが現れた瞬間。
炎すら怯えるように揺れた。
咆哮。
人々の悲鳴が響く。
「人間たちの狙いは…… 私……」
澪は、 静かに俯いた。
燃え盛る神社。
少女を抱く、 一人の女性。
優しい瞳。
けれどその身体には、 黒い根が絡みついていく。
「御母様……!」
根が、 女性を地中へ引きずり込んでいく。
凪は、 言葉を失っていた。
遠い神話の出来事。
けれど、 澪にとっては違う。
“過去”ではない。
実際に見た、 記憶。
「その黒い影は…… 戦う人間たちを襲っていったの……」
澪が、 ゆっくりと石像へ歩み寄る。
静かに、 その巨体へ触れる。
「その時…… どこからともなく現れたのが――」
澪は、 神機を見上げた。
「神機」
「これは…… その神話の戦いの、 続きなのかもしれない……」
澪は、 小さく俯く。
「凪を…… 巻き込んでしまった……」
震える声。
「ごめんなさい……」
澪は、 そっと手で顔を覆った。




