↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神薙 ~日本神話×ロボット。怪獣を救う神機の物語~  作者: さく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/87

27話 修行の後 27-1

凪たち一行は、自分たちが来た道を引き返し、再び湖へと下山しようとしていた。

帰りは自分たちが一度掻き分けて進んできた道をなぞって降りるだけなので、障害物が多い行きに比べれば、幾分か足取りはマシだった。


先頭を歩く茜と凛の後ろで、レイは一人、複雑な思いを抱えながら歩いていた。

頭の中に、無数の疑問が渦を巻いている。


凪が突然、何かに気づいたように下山しようと言い出したこと。

昨日、確かに行ったはずの滝が、跡形もなく消えていたこと。

そして何より——あの滝行の最中に経験したこと。


すべてがレイの胸の内で暴れ、もはや我慢の限界だった。

レイは一歩足早に踏み出すと、前を歩く凪の肩を後ろから強く掴んだ。

「……どういうことだ?」


「え?」

凪は驚いて振り向く。

だが、レイの張り詰めた真剣な表情を見た瞬間、彼が何を問い詰めているのか、その意図はすぐに察しがついた。


「あるはずのものが消えてたなんて……言っても、茜さんたち信用してくれないでしょう」

凪は茜たちの背中をアゴで示したが、レイがその答えに全く納得していないことは、見ればすぐに分かった。


「それだけじゃない。あの滝行でのことだ……お前、何か知って——」

「レイさん」

凪は静かに、けれど遮るようにレイの言葉を止めた。


「僕も、全部をよく分かっているわけじゃないんです。……ただ、推測なら、いくつかできますけど」

凪は歩みを止め、改めて周囲をぐるりと取り囲む鬱蒼とした森を見渡した。


いま自分がこの場所の「正体」を意識しているからだろうか。

木々の隙間を抜けていく風はどこか心地よく、神聖な空気が肌を撫でている気がした。


だが、それと同時に——心臓を直接握られるような、凄まじい威圧感も確かに感じていた。

(……やっぱり。あの時の約束、守れなかったから怒ってるな……お兄様)


かつての修行の折、澪を、そして世界を護るとお兄様と誓ったはずの凪。

その約束を果たせぬまま、劣等感に駆られてここに逃げ込んできた凪に、お兄様は手厳しい発破をかけてくれているのだろう。


「……」

レイはまだ釈然としない表情だったが、この森全体から漂う圧力を感じ取り、それ以上追及するのをやめた。

納得はできないが、今は引くしかない雰囲気を、スナイパーの勘で察したのだ。


「ちょっと、男二人でこそこそ何話してんの?」

不意に、二人の間にひょっこりと首が突っ込まれた。


いつの間にか足を止めて待っていた凛が、怪しむように目を細めて二人の顔を覗き込んでいる。

「いや、何でもないですよ! 何で滝がなかったのかって話してただけです。」

凪はあからさまにしどろもどろになって否定する。


凛はそんな凪に、品定めをするようにグイッと顔を近づけた。

「ふーん……。怪しい。」


「まあ、いっか。隠し事は後でたっぷり吐かせるとして——」

凛はふっと身を引くと、意地悪くニヤリと笑った。

「二人には、湖を見られなかった埋め合わせ、たっぷりしてもらうからね。」


その様子を見て、少し後ろにいた茜はおでこにパチンと手を当てて、盛大に呆れ返っていた。


◇


凪は、背筋が寒くなるような得も言われぬ不安に襲われていた。

(埋め合わせって……一体、何をさせられるんだ?)


脳裏を過るのは、凛のあの不敵な先ほどの言葉と、底意地の悪い笑みだ。

その後、気になって移動中に何をどう聞き出そうとしても、「降りてからのお楽しみ」と凛はただニヤついているだけ。


挙句の果てにはフンフンと鼻歌まで歌い出し、陽気な足取りで一番前を歩いて下山している。

あの背中が、今はどんな怪獣よりも恐ろしい。


凪はたまらず、隣を歩くレイと顔を見合わせた。

二人の口から、示し合わせたように自然と重苦しい溜息が漏れ出た。


やがて木々が途切れ、視界が一気に開けた。

美しい湖畔へと戻ってきた瞬間、さっきまでの登山での疲れなど何処へやら、凛は弾かれたようにジープに向かってダッシュしていった。


「凛さん……っ!」

凪の必死の引き留めも虚しく、彼女は後ろ姿のまま楽しそうに手を振って走り去っていった。


取り残された凪が藁にもすがる思いで茜に目を向けると、彼女はまだおでこに手を当てたまま、酷く呆れ果てた顔をしていた。

「……これからが本当に大変よ?」

茜はそれだけを不吉に言い残すと、何も教えてくれないまま、凛の後を追うようにトボトボと歩き行ってしまった。


何をさせられるのか、今度こそ本気で気が気でなくなった凪は、ただ立ち尽くすしかなかった。


◇


「じゃーん!」

ジープに戻った一堂を待ち受けていたのは、用意していた水着を意気揚々と見せびらかす凛の姿だった。


「は……?」

凪は素っ頓狂な声を上げたまま、開いた口が塞がらなかった。

得も言われぬ恐怖の正体が、まさかこれだとは夢にも思っていなかったのだ。


「……凛ならそうだと思った」

茜は諦めきった呆れ顔のままジープに近づいていくと、手慣れた様子でトランクの奥を漁り始めた。


「いつの間にこんな物を……」

凪の引きつった視線の先で、トランクからは浮き輪やビーチボールといった水遊びセットが次々と引っ張り出されていく。


「だって……前に任務でここに来たときも、すっごく綺麗な湖だなって思ってたんだもん!」

凛はもう泳ぎたくて仕方がないと言わんばかりに、その場でウズウズと身体を揺らしている。


彼女の「埋め合わせ」とは、隊長に怒られる恐怖を帳消しにするくらい、この湖を全力でエンジョイすることだったらしい。


茜は本日何度目か分からない深い溜息をつきながら、トランクの底から別の布切れを掴み出した。

「あんたたちの分も用意してあるわ。」

凪の胸元に投げつけられたのは、見覚えのない男物の水着だった。


「何処からそんなもの持ってきたのっ!?」

思わず大声でツッコんでしまう凪。男二人の水着の用意していたというのか。


「えへへ、こんな時のためね!」

凛は悪びれる様子もなく、いたずらっぽく舌を出してウインクしてみせた。


◇


ジープのすぐ傍らに設営したテントの中からは、楽しそうにはしゃぎながら着替える茜と凛の声が漏れ聞こえていた。

その楽しげな声とは対照的に、凪とレイの二人はジープの狭い車内で着替える羽目になっていた。


「なんで俺がこんなことに……」

シートの隙間に足を引っ掛けそうになりながら、ぶつぶつと文句を垂れて着替えるレイの姿に、凪は思わず苦笑した。


「……なんだよ」

凪に笑われたことに気づき、レイはいつにも増して不機嫌そうな顔を向けてくる。

そのあまりの不貞腐れぶりに、凪はついに噴き出してしまった。


「すみません。でも、なんだかんだ文句を言いつつも、ちゃんと着替えるんだなと思って」

クスクスと肩を震わせている凪を、レイは忌々しそうに睨みつける。


「……あいつ、一度言ったら絶対に聞かないからな」

ぶっきらぼうに吐き捨てられたその言葉は、明らかに凛のことを指していた。

あしらい方を誰よりも分かっているレイは、諦めたようにジープのドアを勢いよく開けた。


「行くぞ」

「あ、待ってください」

レイの言葉に促され、水着姿になった凪も車外へとついていった。


「じゃーん! どう、似合ってる?」

外へ出ると、待ち構えていた凛がまばゆい水着姿を見せびらかすように、自信満々にポーズを決めてみせた。

そのすぐ後ろでは、同じくビキニ姿の茜が、気恥ずかしそうに身体を少し縮こまらせている。


「——っ」

凪は二人の予想以上に刺激的な水着姿を直視できず、一瞬で顔を真っ赤にして、無意識のうちに視線を明後日の方へと逸らした。


「あれ〜? 凪くん、もしかして照れてるのかな?」

その初心な反応を見逃すほど、凛は甘くなかった。

悪戯っぽい笑顔を浮かべた凛が、凪の顔を覗き込むようにしてグイッと前屈みになる。


「ち、違いますっ……!」

凪は慌てて手を振って否定するが、顔の赤さは増すばかりだ。


「何が違うのかな〜? 目、泳ぎまくってるよ?」

逃げる凪を、凛は楽しそうに揶揄いながら追いかけ回した。

少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】で応援していただけると、更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。