25話 旅立ち 25−2
凛は車を運転していた。
隣には茜。
「やっぱりダメ。」
茜は双方の気持ちで揺れ動いていた。
「じゃあ、来なきゃ良かったじゃん。」
凛は悪戯な顔で茜を横目に見る。
「それに心配じゃないの?
レイと凪のこと。」
前に目を戻す。
車は山道に差し掛かったところだった。
車が大きく跳ねる。
「心配だけどさ……。」
茜の心には罪悪感も生まれている。
「……。」
二人の間に少しの静寂が訪れる。
その時、茜のスマホがバイブレーションで震える。
「あ……隊長……。」
茜は意を決してスマホに出る。
怒鳴り声が聞こえた。
張り終わったテント。
湖のほとりで、焚き火を炊いていた。
そこに静かに座る二人。
凪は焚き火を見つめる。
自分の周りは火に因縁があるのかもしれないと思う。
澪、ミズホノメは火に焼かれた。
焔は火雷神だった。
(何を焦っているんだろう?)
自然とその疑問が出てきた。
ここ最近、ずっと考えていたこと。
未だ答えの出ないもの。
ここでその答えが出るかは分からない。
しかし、何故かここに来たくなった。
「ここで何をする気だったんだ?」
ふと、レイの声がして顔を上げる。
「何ですか?」
凪は自分の中に入って聞いていなかった。
それを恥ずかしく思う。
レイは表情を変えず、繰り返す。
「ここで何をする気だったんだ?
ただ、のんびりしに来たわけじゃないんだろう?」
レイが焚き火に枝を焚べる。
凪はレイのその言葉に返事を返せなかった。
実は何をするとは考えてなかったのだ。
突然、ここのことが頭に浮かび、行かなくてはいけないと思った。
口をつぐむ凪にレイは少し噴き出した。
「何だよ。
何にもないのかよ。」
そして、笑い出す。
レイの笑いを見るのは、初めてだ。
正直、何でレイの笑いのスイッチが入ったのか分からない。
凪もつられて笑った。
焚き火の音だけが、静かな湖畔に響いていた。
茜の電話が終わった。
「お前たちどこにいる!」
そんな怒鳴り声が聞こえたのは最初だけだった。
その後の茜は返事と謝罪とお礼を繰り返していた。
茜は力が抜けたように項垂れる。
「何て言われた?」
凛は恐る恐る茜に聞く。
「純粋種が出たらすぐ帰ってこいって」
茜は少し笑みを見せて、凛に顔を向ける。
「え?」
凛は素っ頓狂な声を上げる。
普通ならすぐ帰ってこいと言われてもおかしくないはずだ。
「それって……、許可もらえたってこと?」
凛は混乱した頭でゆっくり言葉を紡ぎ出す。
「何故かね。」
茜はシートに体を預ける。
そして、笑みを浮かべて天を見上げる。
喜んでいる凛に顔を向ける。
「でも、帰ってきたらお説教だって。」
凛の顔が一気に青ざめる。
そして、今度は凛が項垂れた。
一頻り笑った二人は、ゆっくり椅子の背もたれに体を預ける。
久しぶりに笑った気がするとレイは思う。
急にいつもの無表情に戻るレイ。
その一連に本当は表情豊かな人なのかなと凪は思った。
ふと、レイは思いついたように体を持ち上げる。
「こういうところで自分を見つめ直すって言ったら滝行だな……。」
「それだ!」
凪も同意する。
しかし、少し考えて思い直す。
「素人がやって大丈夫なやつです?」
凪の言葉に二人は腕を組み悩む。
提案をしてみたものの、レイもやり方を詳しくは知らない。
凪はスマホを取り出す。
「こういうときは文明の利器を使いましょう。」
二人はスマホを弄りだす。
電波は辛うじて入っていた。
(ここ、電波入るんだ……。)
そんなことを思いながら、滝行に着いて調べる。
「よく分からんが、大丈夫だろう。」
レイのその言葉に、凪は驚く。
(レイさんってこんな楽観的な感じだったんだ。)
意外な感じがした。
凪はレイの新しい一面を見たようだった。
「何だよ?」
レイが少し不服そうに凪を見る。
「いや、何でもないです。」
慌てて否定して立ち上がる。
「滝行するなら良いところがあります。
こっちです。」
凪はレイを導いて、山の奥に入っていく。
(あれ?何で滝の場所知ってるんだっけ?)
凪は疑問に思いながらも、レイを案内した。
「はあ……。」
豪はスマホをタップして、机の上に置く。
大きな溜息は出たが、心配はない。
それよりも、呆れの方が勝っていった。
(茜までついていくとはな……。)
茜も心配なのは分かるが。
豪も茜達は連戦で休養は必要だと思っていた。
だから、許可は出した。
豪は机の上の紙束の一ページ目を捲る。
量産型武尊を個人に合わせたカスタマイズ計画の企画書だ。
この改修計画に合わせて、提案されたものだ。
色々な案を出してくるものだと豪は感心した。
茜の武尊には、オールマイティに行動できる装備。
凛の武尊には、中距離装備に特化している。
レイの武尊は遠距離に特化するようにスナイパーライフルが計画されていた。
(これもあるんだがなぁ……。)
茜や凛、レイにカスタマイズ案について、聞くこともあった。
(量産型も遂に専用機になるんだな。)
量産化の意義に反している気がするが、特別変わったところはない。
少しだけ、個別に"癖"が出るだけだ。
椅子に背中を預ける。
(まあ、いい
皆で成長して帰ってこい。)
豪は少し笑みを浮かべる。
(でも、帰ってきたら覚えてろよ。)
豪は紙束を引き出しに戻した。
凪とレイは滝の前につく。
滝行にはもってこいの大きさだ。
「ここか?」
レイが凪の後ろから聞く。
「はい。」
凪は短く答える。
ここに何故か来なければいけなかった。
その思いが強くなる。
お誂向きに二つの岩が滝の下にある。
「あそこに座れそうだな。」
レイがそこに指を指す。
「ええ。
行ってみましょう。」
凪とレイは滝に近づいていく。
「俺……。
ここに来なきゃいけなかった気がする。」
凪はそう呟く。
「その答えを探しに来たんだろ。」
そう言ってレイが服を脱ぐ。
「行くぞ!」
レイは自分に気合を入れるように頬を叩く。
ゆっくりと湖に足を入れるレイを見て、凪も気合を入れる。
そして、凪もレイに続いた。
白い飛沫が二人を包んだ。
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