23話 茜の空 23−3
凪は司令室に向かう。
(俺は何を焦っているんだ……?)
量産型武尊・肆の腕が解体されているだけ。
そのために、出撃できなかっただけ。
そのはずなのに。
(焦るな。)
豪の言葉が頭に過る。
分かりきっている。
澪やミズホノメを助けなければいけない。
焔との"戦い"も決着していない。
(それだけか……?)
凪は考える。
あの時は、有耶無耶になった。
草薙剣を持って、納得したつもりだった。
しかし。
凪は窓から空を見る。
今日はどんよりとした雲に覆われている。
窓を開けて、ゆっくり空気を吸い込んだ。
大気を満たす濃厚な雨の気配は、まるで自分の焦りをあざ笑うかのように冷たかった。
(雨が降りそうだな……。)
凪の心も晴れなかった。
凪は司令室に入る。
司令室はどよめき、一堂がモニターに釘付けになっていた。
その目線が集まっているモニター。
そこに凪も目を向けた。
そこには、茜が映っていた。
茜は目を見開き、微動だにしない。
操縦桿を握る手だけが震えている。
凪はそのただならぬ雰囲気に言葉が出なくなった。
豪が拳を握る。
(まだ、早かったのか……?)
そんな考えが頭を過った。
その考えを振り切るように頭を横に振る。
そして、オペレーターのマイクを奪う。
「茜!落ち着け。」
モニターの茜にはその言葉が届いてないように見えた。
(どうする……?)
豪は次にかける言葉を見失った。
豪も茜ならできると信じている。
しかし。
茜の引きつけのような震えは止まることを知らなかった。
誰も次の言葉を発せない。
司令室には、茜の荒い呼吸だけが響いていた。
数分前。
純粋種が三人の視界に入った。
「行くよ!」
茜の声が叫ぶ。
それと同時に各機、散開する。
「フォーメーション……!」
レイが純粋種に貫かれそうになったことが頭を過る。
「茜……?」
凛の応答が耳に入る。
茜は頭を横に振り、考えを振り切った。
「フォーメーションDでいくよ。」
フォーメーションD。
それは前回と同じ。
茜と凛が敵を撹乱し、レイが長距離から仕留める。
それが茜たちの編み出した戦法である。
レイは皆の中でずば抜けて射撃の精度が高かった。
茜と凛は競うように、スピードを求めた。
その個性を活かす戦法だった。
「了解。」
レイは一瞬だけ茜の声に違和感を覚えた。
しかし、照準から目を離さなかった。
(今度は外さない……!)
レイはトリガーに指をかけた。
「凛!行くよ!」
茜は自分を鼓舞するように、叫ぶ。
「了解!」
凛もそれに応答する。
それと同時にペダルを踏み込んだ。
茜と凛の武尊が加速する。
二人で練習したマニューバ。
武尊が背中合わせで四足の純粋種に特攻する。
マシンガンを持ち、二機同時に撃ち込んでいく。
純粋種はその攻撃に悲痛の咆哮をあげる。
そして、背中から蠢き這い出した根を突きだした。
(根の槍……!)
茜の心臓が跳ねる。
「……くっ!」
茜と凛は左右に分かれて、側面を撃っていく。
純粋種は標的を見失う。
双方を撃たれ、咆哮をあげた。
「いける……!」
凛の声が聞こえた。
「待って!」
茜が叫ぶ。
茜には四足の純粋種の背中が蠢いて見えた。
「何……?」
四足の純粋種の背中の根が蠢き、絡み合っていく。
そして、それが形を成していく。
純粋種の背中にあるもの。
それはさながら大砲に見えた。
「各機散開!」
茜の叫びをかき消すように、純粋種の背中が閃いた。
次の瞬間、大砲から無数の根が撃ち出された。
無数の根は噴き上がり、四方八方へ落下していく。
それは根の槍の雨のようだった。
レイはその光景を見ると同時にペダルを踏んだ。
バーニアが噴き出し、急速に後方へ移動する。
機体が地を削る。
その削った地の跡に、根の槍が振り注いでいく。
レイは咄嗟に、量産型武尊・弐の腕に内蔵されたガトリングを上空に撃つ。
(間に合わ……!)
根の槍がレイの武尊を貫いた。
「レイ!」
茜は降り注ぐ根の槍がレイの武尊を貫くところを目撃した。
目を見開き、虚ろな目で計器を見つめる。
(また……判断ミスをした……。)
操縦桿を握る手が震える。
通信で何かが聞こえる。
(やっぱり私は……。)
目に涙が溜まっていく。
「茜!」
コクピットに衝撃が奔る。
Gが茜の前面に圧力をかける。
「……ぐっ!」
茜が前を見る。
凛の武尊が茜の武尊を抱きかかえるように、根の槍から遠ざける。
「凛……!」
二機は空中でバランスを崩して、落下する。
山腹の土を抉り、滑り落ちていく。
コクピットが揺れる。
その揺れが茜の脳を揺らし、覚醒させていった。
「茜!
しっかりして!」
凛の声が耳をつく。
凛のコクピットを映す小ウインドウがモニターの真ん中に映し出される。
目の前の凛の武尊がゆっくり起き上がる。
「でも、レイが……!」
茜がその凛に向かって叫ぶ。
怯えている。
それが自分でも分かった。
「レイは大丈夫。
だから、落ち着きなさい!」
凛の武尊がレイの方へと指を指す。
茜は恐る恐るレイの武尊に顔を向ける。
火花が散っている。
左腕があった場所にはそれがなくなっていた。
しかし。
無事だ。
レイの武尊が黙ってサムズアップをした。
「レイ……!」
茜の頬に涙が伝う。
止め処なく、溢れ出す。
「茜。
泣いてる暇なんてないよ。」
小ウインドウの中の凛の目も潤んで見えた。
「私たちをみちびーー」
茜の目に根の槍の追撃が見えた。
「ちっ……。」
誰かの舌打ちが聞こえた。
各機は飛び上がり、根の槍を交わしていく。
茜はその舌打ちに何故か心が軽くなった。
レイの無事が確認できたことに安心したのもあるだろう。
凛の激励が嬉しかったのもある。
しかし、茜は二人が思っていることが手に取るように分かった。
それは。
(純粋種は休む暇を与えてくれない。)
もしかしたら、いい雰囲気も関係ないとも思ってるかもしれないと思った。
三人は根の槍の雨を交わし、撃ち落としていく。
「茜!
私たちはあんたを信じてる!」
茜のモニターに二つの小ウインドウが映る。
凛とレイだ。
わずかにレイが頷いたように見えた。
(なんで……?)
その言葉が頭を過る。
太陽の光が雲の間から覗かせる。
それが茜の武尊を照らしていった。
今は分からない。
けれど、二人が信頼してくれる。
それだけで力が出た。
「行くよ!」
茜が号令をかける。
もう、操縦桿を握る手は震えていなかった。
雲の切れ間から差す光のように、茜の心にも迷いは晴れつつあった。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】で応援していただけると、更新の励みになります!




