23話 茜の空 23−1
茜は一人、訓練場を走っていた。
走りながらも頭の中には昨日の豪の言葉が頭を離れない。
(俺の判断は変わらん。)
豪のその言葉が、茜の中で反芻する。
(どうして……?)
疑問の答えが出ず、あまり眠れなかった。
豪がどうして自分にリーダー任せたいのか分からない。
茜は泣きそうになるのを、必死に堪えた。
目の中に溜まる涙を腕で拭く。
茜は地面を強く蹴った。
息が苦しい。
それでも足を止めたくなかった。
考えを振り切りたい。
でも、その言葉はどこまでもついてきた。
ふと、足音が増えた。
茜はそれに気付いて、横を向く。
「凛……!」
凛は茜に笑顔を向ける。
「付き合うよ。」
そして、並走する。
もう一つ、足音が増える。
茜は近づいてくる足音の方に振り返る。
「レイ……!」
「……。」
レイは無言で並走する。
横目で見るレイと目が合った。
茜は何故かレイと凛が同じ理由でここに来たと分かった。
二人も迷っている。
三人は無言で駆ける。
あの朝日に向かって。
「青春だな……。」
豪は司令室の窓からその様子を見ていた。
三人がどう答えを出すのかが楽しみだった。
豪の口元が少し緩む。
「その言い方おじさんみたい。」
近くのオペレーターが軽口を叩く。
「俺はまだおっさんじゃないぞ!」
豪が言い返すと、司令室内に笑いが起きる。
軽く溜息をつく豪。
ふと、目をやると口元に拳を当てて、不破も笑っていた。
「司令官まで、何笑ってるんです?」
不破は軽く咳払いをして、姿勢を正す。
「豪さん、今日来てもらったのは編成の件です。」
(すり替えたな……。)
豪はそう思いつつも、襟を正し不破の前に立つ。
「茜さんの様子はどうです?」
不破は量産型武尊・壱の修理状況を確認する。
無理をさせたのか腕の駆動系に問題が出ているようだ。
「あいつは負けませんよ。」
豪はそれだけ答えて、グラウンドに目をやる。
茜を先頭に三人は走り続けていた。
凪は量産型武尊・肆の前に立つ。
メカニックが量産型武尊・肆の各部位を修理している。
凪は草薙剣に目を向ける。
(何でこれだけ……?)
真・神機は封印された。
だから、草薙剣も一緒に封印されたものだと思っていた。
しかし、草薙剣はここにある。
真相を聞こうと思っていたが、豪は今、司令室に行っている。
(豪さんが帰ってきたら聞くか……。)
凪は振り向き、ミーティングルームに向かうために足を前に出す。
「あれ……?」
そんな声が聞こえた。
凪は再度、量産型武尊・肆に向き直り、声のしたところを探る。
腕部の周りにメカニックが集まっている。
「どうしたんです?」
凪は自分の操縦がマズかったのかと焦って声をかける。
そして、腕の方に行ってみる。
量産型武尊・肆のメカニック担当のリーダーがタブレットを操作しながら、近づいてくる。
「何か設計と違うんだよ……。」
「え?」
凪は驚きながら、タブレットの設計図と腕部を見比べる。
確かに違うように見える。
「何でですか?」
凪は素直に疑問をぶつけてみた。
メカニックは眉間に皺を寄せたまま、ペンで頭を掻く。
「分からん……。」
メカニックはタブレットと腕部を何度も見比べる。
そして、タブレットを操作し、稼働映像を見せる。
「設計図では、ここはこう動くはずなんだ。
なのにこいつは違うものになってる。」
「しかし……。」
メカニックが言いかけて、考え込む。
「何です?」
凪が聞くと、メカニックは腕組みをする。
「こっちの方が、稼働がスムーズになるぞ……。」
凪はその言葉に耳を疑った。
凪はミーティングルームに向かう通路を歩いていた。
「草薙剣の影響か……?」
それ以外に説明できない。
そう思った。
「だから、動かしやすかったのか……?」
凪は顎に手を当てて考えながら、進む。
凪に技術面は分からない。
しかし、異変が起きていることだけは分かった。
(神の力……か?)
凪は改めて真・神機の凄さを思い知る。
そしてミズホノメの力も……。
凪が司令室の前に差し掛かる。
豪と不破の話し声が聞こえてきた。
「凪さんの方がリーダーには適任なのでは?」
不破が豪に目を向ける。
「そうかもしれませんが……。」
豪が眉間に皺を寄せ、考え込む。
「実戦経験では彼が群を抜いています。」
不破の目が鋭く光る。
「それはどういう……?」
豪はその鋭い眼光にたじろぐ。
「隠さないで宜しい。
凪さんが真・神機のパイロットだということは皆知っています。」
凪はその不破の言葉に目を見開く。
(バレてる……!)
凪はずっと隠しているつもりだった。
その司令室で豪と凪だけが慌てていた。
「知っていたんですか……?」
豪は諦めたように、その事実を認めた。
「当たり前でしょう。
私も訓練や選考試験に関わっていましたからね。」
不破も選考試験の試験官だった。
(流石の目利き……。)
豪はそう思うと同時に、更に鋭い眼光が向いているのに気づく。
「それに気づかないわけがないでしょう?
あの剣を渡すように熱心だったじゃないですか。」
草薙剣。
あれを回収した時、何故かこの剣を凪に渡さないといけない。
そう思って、豪は持ち帰った。
(気づく要素しかなかった。
そうだよな……。)
そう思い、苦笑する。
「話を戻します。」
不破は後ろ手に腕を組み、歩き出す。
「戦闘経験では、豪さんよりあると言っていい。
それでは、リーダーは凪さんに任せるべきでは?」
不破がゆっくりと振り返り豪を見る。
「……。」
豪は少し考える。
確かにそうかもしれない。
しかし。
「あいつは何かを抱えてる。
それが何かは分からない。」
豪はゆっくりと目をつむる。
そして、目を開く。
「いつかその時が来た時……動けるようにしといてやりたいんです。」
(豪さん……。)
隠れて聞いていた凪の胸が熱くなった。
「それに茜を選んだのには理由が……。」
豪が言いかけたそのとき。
怪獣アラートが鳴り響く。
会話はそこで途切れた。
司令室の空気が一変する。
司令室が途端に慌ただしくなる。
「純粋種出現!」
オペレーターが叫び、場所をモニターに映す。
「遠いですね……。
直ぐに出撃して下さい!」
不破はそう指示を出す。
その指示が聞こえるか聞こえないかで五人は走り出す。
それぞれの想いを胸に。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくださったら、ページ下部の【ブックマーク】や【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】で応援していただけると、更新の励みになります!




