22話 それぞれの意志 22-2
純粋種が塵となって消えていく。
それを見つめる焔。
自分でも、この感情がなんなのか説明がつかない。
焔は視線を落とす。
(御母様は人を恨んでいる。
そして、人を消そうとしている。)
そう思いながら、焔は背を向ける。
(それを手助けすることが、俺の使命…。)
そう思っていた。
量産型武尊・肆がバーニアを吹かす。
轟音と暴風。
焔はその風を防ぐように、腕を前に出し量産型武尊・肆を見る。
量産型武尊・肆は草薙剣を鞘に収めた。
(凪…。
お前なのか?)
焔は凪に思いを馳せる。
(お前ならどうする?)
答えはない。
量産型武尊・肆が飛び去っていく。
風が収まっていく。
一人取り残された焔。
焔はフードを被る。
そして、歩き出す。
(俺は…どうすれば良かったんだ…!)
焔は拳を岩へ叩きつけた。
鈍い音とともに岩が砕ける。
焔は砕けた岩を呆然と見つめていた。
純粋種が暴れた跡。
それは酷いものだった。
建物は崩れ落ち、車は潰れている。
今回は郊外だったこともあり、比較的に無事な建物も多い。
そんな中を焔は歩いていく。
人影がない。
避難したのだろうか?
(人がどうなろうと知ったことではない。)
首に下がった琥珀の勾玉に無意識に触れる。
遠い目をして、街を歩く。
ふと、音がした。
焔は咄嗟に周りを見渡す。
警戒するように、音の出所を探っていく。
コンクリートの破片が落ちる。
焔は瞬時にそこに目を移す。
床が動く。
そこには、鉄の扉がついていた。
それが鉄の擦れる鈍い音ともに、ゆっくり開いていく。
焔は最大限に警戒する。
「ぷは……。」
女の子が顔を出す。
そして、周りを見渡す。
「大丈夫みたい!」
女の子はその空間から飛び出した。
後ろからは、女の子を心配する大人の声がしていた。
焔は警戒を解く。
(人間共はそこに隠れていたのか…。)
わらわらと穴から抜け出していく人々。
「今回は早めに出られたな。」
人々が口々に言葉を発しながら現れる。
「シェルターにも慣れてきたな。」
男は苦笑いをする。
女の子が呆けている焔に近づいてくる。
焔は咄嗟に顔を隠す。
「お兄ちゃんもかくれてたの?」
「…。」
焔は警戒する。
女の子が唐突に焔の手を引いた。
「こっちだよ。」
「お、おい。」
焔は何故か抵抗できなかった。
なので、女の子に手を引かれるままついていくしかなかった。
焔は女の子の手を離す。
「何をする……!」
マントで口を隠したまま、睨みつける。
女の子はきょとんとしつつ、後ろに指をさす。
「あそこ。」
焔は指の先を見る。
自衛隊が巨大な寸胴の中をシャベルでかき混ぜている。
「なんだ……?」
焔は眉を顰めて注視する。
そこに先ほど出てきた人々が集まってくる。
「お兄ちゃんお腹空いてるんでしょ?」
女の子は純粋無垢な笑顔を焔に向ける。
「ママが言ってたよ。
お腹が減ると、機嫌が悪くなるんだって。」
女の子は再度、焔の手を取った。
「行こ?」
呆然と見つめる焔は手を引かれるまま、列に並ぶ。
「私もお腹減ると、なんかわーってなっちゃうの…。」
そんな女の子の言葉は焔の耳に入っていなかった。
(あれはなんだ…?)
人々は自衛隊から笑顔で何かを受け取っている。
お礼をしてゆっくりと離れていく。
ベンチに腰掛けた人々は、それに息を吹きかけていた。
そして、ゆっくりと口に運んでいく。
人々はその度、息を漏らしていた。
目尻が下がっている。
(安心している……?)
「お兄ちゃん。」
女の子に叩かれ、ハッとする。
いつの間にか、自衛隊の前にきていた。
「どうぞ。」
自衛隊から器を受け取る。
温かい。
器の中には茶色い液体。
そして、色々な作物が浮いていた。
女の子はもういなくなっていた。
両親を見つけたのかもしれない。
焔は人間から離れたところに腰掛ける。
まじまじとそれを見つめる。
そして、見様見真似でそれを口に含む。
焔の中に温かいものが広がった。
(温かい……。)
焔は器を両手で包み込む。
温もりは、ゆっくりと指先から胸へ染み込んでいく。
(人間が……。)
焔は器から立ち上る湯気を見つめた。
この温もりを作り出しているものが、人間だということを、焔はまだ信じられなかった。
武尊弐型と量産型武尊四機が基地に戻ってくる。
そして、各格納庫に収容されていく。
茜はレールに量産型武尊を乗せる。
操縦桿を握る手の力が抜ける。
手が力なく落ちると同時に、体の力も抜けて計器におでこを乗せる。
深くため息を吐く。
「もっと……、上手くいくはずだったのにな……。」
茜は自分を抱きしめる。
そして、静かに涙が溢れた。
レイは無線を何も言わずに切る。
茜の静かな嗚咽を聞いていられなかった。
初陣。
それは静かなレイにも思うところがあった。
「…。」
静かに天を仰ぐ。
無機質なコクピットの中にランプがポツポツと点灯している。
(俺が急所を撃ち抜けなかったんだ……。)
レイはゆっくりとシートに体を預ける。
(次こそは……茜を泣かしたりしない。)
レイの目に力が入った。
凛にも思うところがあった。
(レイを助けられたから良かった。
でも、もう少し遅かったら…。)
純粋種の根の槍がレイの量産型武尊に刺さったところを想像してしまい、身震いした。
(もっと早く状況判断できていれば…!)
レイを危険に晒すことはなかった。
そう思って、拳を握る。
(私は二人から出遅れてるんだ…。
もっと、頑張らないと…!)
三人の武尊が格納庫に収納された。
メカニックが武尊に取り付いて、修理を開始していく。
三人は重い足取りでコクピットを降りた。
今からミーティングだ。
切り替えないと……そう思った。
三人はそれぞれ前を向く。
しかし、誰一人として顔を上げることはできなかった。
豪は武尊弐型に背を預けて、三人の姿を見つめていた。
軽く溜息をつく。
しかし、その口元には笑みが溢れていた。
「珍しいですね。
豪さんが溜息なんて。」
凪がヘルメットを脱ぎつつ、豪に近づいていく。
「隊長だ。」
豪は笑みを浮かべたまま凪を叱る。
「すみません。」
凪も冗談めかして謝った。
そして、豪の目線の先。
そちらに凪も顔を向ける。
「茜さん達……。」
凪が言いかける。
それを豪が手を出して制止する。
「あいつらなら大丈夫だ。」
豪は三人を真っ直ぐ見据える。
その目には、力強さが宿っていた。
「それよりも行くぞ。
ミーティングだ。」
豪が口角を上げて凪を見る。
「……了解。」
凪は少しだけ憂鬱になる。
そして、三人に目を戻す。
笑みが溢れる。
凪も初陣を思い出し、その姿に懐かしさを覚えていた。
豪が凪の背を叩く。
豪と凪も三人の後を追うようにミーティングルームへ向かった。
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