21話 新たな旅立ち 21-1
あの日から二年の月日が過ぎた。
純粋種の怪獣が日本に大量に現れた。
そして、澪が封印したあの日。
日本政府は、急遽怪獣に対策するための組織を軍に新設した。
怪獣対策統合本部。
怪獣が現れた時に組織の垣根を越えて対策する。
それがこの組織の役割だ。
成人した凪は自衛隊へ入隊した。
豪のもとで二年間、厳しい訓練を受け続けた。
そして、怪獣対策統合本部に配属されることになった。
(やっと、ここまできた。
澪ちゃん…。ミズホノメ様…。
待っていて。)
凪は号令と共に気をつけをする。
前に立つのは、隊長の豪。
その後ろには、武尊弐型。
豪の特別仕様だ。
「今日からお前たちは正式に怪獣対策統合本部に入隊した。
厳しい訓練。ご苦労!」
隊員の気が少し抜ける。
豪らしいと思うと同時に襟を正す。
新パイロットに与えられたのは量産型武尊。
この二年で、試作型武尊をもとに量産型武尊が四機開発された。
さらに豪専用として武尊弐型も完成している。
その開発には、あの日回収された神機の研究成果も活かされている。
御兄様の神機であり、焔が搭乗していた機体だ。
豪が号令をかける。
「呼ばれた隊員は、武尊の前に立て。
量産型武尊・壱!茜!」
「はい!」
茜が量産型武尊・壱の前に起立する。
胸を張り誇らしげに立っている。
豪はそれを確認して、次ものを呼ぶ。
「量産型武尊・弐!レイ!」
「はい!」
レイが量産型武尊・弐の前にキビキビとした動作で移動する。
そして、起立する。
立ち姿が美しい。
「量産型武尊・参!凛!」
豪が声を張る。
「はい!」
凛も量産型武尊・参の前に起立する。
緊張しているのか顔が硬い。
豪は三人を見渡す。
(お前たちなら大丈夫と思ってたぜ)
心が熱くなる想いがする。
「最後!」
豪が凪に目を向ける。
「量産型武尊・肆!凪!」
「はい!」
凪は腹から声を出す。
そして、量産型武尊・肆の前に起立する。
量産型武尊を見上げる。
(澪ちゃん…。)
凪は決意とともに前を向いた。
クロークを羽織った男がゆっくりと街を歩く。
街の様子は活気に溢れている。
怪獣の出現は収まっていない。
あの時、浄化されたはずの怪獣。
しかし、定期的に怪獣は現れていた。
なので、建物の中には崩れているものもある。
そんな中でも、人々は笑顔を見せていた。
「…。」
男はその光景を見ながら、街を歩く。
顔を見られないように、フードで隠す。
街を出る。
そして、河川敷の橋の下に腰掛けた。
日本中を旅した。
歩いて、世界を見た。
怪獣の脅威があっても人々は前を向いている。
(大昔の人間たちもそうだった。)
神話時代を思い出す。
土地が枯れていく。
そんなときでも、自分らを鼓舞して頑張る人々。
人々はミズホノメ様に知恵を授かるために澪に縋る。
澪がミズホノメ様に聞いた言葉を皆に伝える。
それを実行する。
数カ月後に実り歓喜する人々。
(そんな人間たちは御母様を焼いた。)
男は街の様子を思い出す。
復興している人々。
行き交う人々の笑顔。
(あいつらもどうせ…!)
男は頭を抱えた。
二年間ずっと考えている。
澪の言葉。
御母様の真実を。
量産型武尊による模擬演習が始まった。
それを司令室のモニターで見ている軍服の男。
「不破司令。」
豪が軍服の男に話しかける。
不破は二年前の大都市防衛作戦における卓越した指揮手腕を認められ、新設された怪獣対策統合本部の司令に任命された。
不破は卓越した指揮手腕を認めていない。
奇跡のようなことが起こっただけで、大都市にも侵攻されている。
しかし、その任を拝命することにする。
次は大都市だけでなく、日本を守る。
不破はそう決意していた。
「なんでしょう?」
不破は豪に顔を向ける。
「あれの準備はできていますか?」
豪はモニター内の量産型武尊・肆を見る。
「ええ。あなたの言う通り用意させました。
しかし…。」
不破も量産型武尊・肆を見る。
「贔屓というのは…。」
不破が眉間に皺を寄せる。
「分かってます。
しかし、あいつのスタイルには合う。」
豪は不破に顔を向ける。
「分かりました。」
不破は根負けと言った様子で、豪を見る。
「第二格納庫に用意してあります。」
豪に笑顔が浮かぶ。
そして、真剣な表情に戻し、敬礼する。
「ありがとうございます!」
豪は司令室を出る。
(凪…。
俺はあの時、お前らを助けてやれなかった。)
豪はあの時のことを後悔していた。
何ができたわけでもない。
しかし、凪は真・神機を失った。
そして、もっと大切なものを失っている。
何を失ったかは豪には分からない。
凪は言わない。
でも、何かを成そうとしているのは分かる。
(非難は俺が受ける。
だから、お前はやりたいことをやれ)
豪は第二格納庫の扉を開ける。
(お前の剣で…。)
そこには巨大な剣があった。
その剣を豪は見上げた。
男は橋の下で腰掛けていた。
どのくらいの時間が立ったか分からない。
空を見上げて、答えの出ない考えが頭を支配していた。
地面の石が音を立てる。
男は音のした方へ目を向ける。
石が震えている。
「…。」
石の震えが強くなっていく。
地面が揺れる。
地響きがする。
「来る…!」
男は顔を上げる。
地面が盛り上がり、土が爆発のように飛び散った。
怪獣が咆哮を上げる。
「怪獣…!」
焔はフードを脱ぐ。
「お前も迷子なのか?」
焔は怪獣を見ながら呟いた。
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