19話 雷神 19-3
広がる黒雲。
その黒雲の底を、低く伏せるように雷が走る。
雷鳴。
轟音を響かせ、天地に鳴り渡る雷。
天から大きく降り注ぐ雷霆。
その一閃は、巨木を容易く析いた。
土へと走る雷は大地を震わせ、若い芽を芽吹かせる。
そして、その雷は猛烈な火となり、大地を焼き尽くした。
破壊と再生。
これぞ、巡りゆく命のサイクル。
(私たちは御母様の喜ぶ顔が見たかった。)
鳴雷神は岩に食らいつく。
バリアは割れども、光が収まる様子はない。
(ヒヒ…。人間に与えれば御母様は喜んだ。)
伏雷神も岩に食らいつく。
浄化の光などもう関係ない。
(人間を増やすべきじゃなかった…。)
析雷神も食らいつき、岩を引き剥がす。
岩はビクともしない。
しかし、食らいつく。
御母様の願いを叶える。
その一心で。
大雷神は六柱の雷神の意志を聞き、胸が熱くなる。
皆の想い。
人間に富を与えんと御母様が産んでくれたあの日。
雷として生まれ大地に降り注いだ。
人間たちはその圧倒的な力に恐怖するとともに、芽吹く命のサイクルに歓喜した。
歓喜する人間を見て微笑む御母様の優しい表情。
(…。)
御母様は腐り、人間を恨み、あの表情はなくなった。
憎悪の顔。
人間は傲慢になった。
数は増え、土地を欲しがった。
作物も足りないわけではなかった。
しかし、人のものを独占したくなった。
もっと多く欲しがった。
人間は力を得た。
燃える神殿。
燃える澪。
燃える御母様。
(御母様は我らを責めなかった。)
根の中で腐った御母様が大雷神の首の頬に触れたあの時。
(御母様は我らに慈悲をくださった。)
「人間共に復讐を!」
その言葉を叶えなければいけない。
大雷神は大岩の中心に食らいつく。
歯が岩に食い込む。
四柱の雷神が大岩を引き剥がしていった。
大岩が細かく砕かれる。
四柱の雷神が大岩を食い砕いていく。
体が消えていく。
大岩に食いつく力が入らない。
それでも歯を食いしばる。
砕かれる音が消える。
一つ。
また一つ。
大雷神が最後に残る。
悲しみを堪える。
六柱の雷神が作ってくれた道。
(お前たちの想い。
無駄にはせぬ!)
大雷神は最後の力を振り絞り、大岩に絡みつく。
体が粒子の光になって天に昇っていく。
足を踏ん張る。
地面が砕ける。
首に力を入れる。
岩が砕ける。
僅かに大岩が動く。
「グウウウ!」
一首の龍が唸る。
大岩が光り輝く。
大雷神が浄化されていく。
大岩にヒビが入る。
光がより一層強くなる。
(御母様…。)
大岩が砕かれた。
そして、大雷神は粒子に消えていった。
大岩の光が増していく。
凪は神機・炎の攻撃を受けつつ、その光景を目の当たりにする。
雷神が自分を犠牲にしてでも、大岩を破壊した。
凪は大穴を見つめる。
(御母様の願い……。)
神機に残ったミズホノメの意思は、少なくとも人間の殲滅ではなかった。
神機・炎が立ち上がり、大穴の方を見る。
(御兄様…!)
御兄様たちの想い。
受け取った誓いを焔は受け継がないといけない。
火雷神として…。
神機・炎はゆっくり大穴に近づいていく。
そして、大穴の前に立つ。
そこには七つの種。
浄化された御兄様の種。
焔が神機・炎から出ていく。
神機・炎の手の先から左手を前に出す。
地上に落ちていた種が火雷神のもとに集まっていく。
「御兄様たち…。
あなたたちの意思は俺が引き継ぐ…!」
焔は手に集まった七つの種を見つめる。
そして、飲み込んだ。
焔は兄弟たちを自分の糧にした。
焔が苦しむ。
そして。
焔の身体を雷が駆け巡る。
全身が焼けるような痛みに膝をつく。
七柱の声が身体の奥で響く。
真の神となった。
大穴から何かが這い出る。
それは根で作られた怪獣ではない。
純粋に肉で産まれた怪獣。
神機・炎は澪へ視線を向ける。
「姉様…。
見て。」
神機・炎は怪獣へ向かって手を差し伸べる。
「純粋種だ。」
火雷神は不気味に口角を上げる。
「俺たちの"弟"だよ。」
火雷神は怪獣を優しく見つめた。
弟と呼ばれた怪獣は地上に顕現する。
大穴から這い出す。
幾つもの怪獣が数えきれないほど現れた。
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