19話 雷神 19-1
「お前…何言ってんだ?」
凪は信じられなかった。
焔が人類を怪獣にしている雷神の仲間だったということに。
「お前は焔だ。
俺には張り合ってくるが、澪ちゃんには甘える。
お前は…。」
凪が必死に焔を説得しようとする。
澪は何も言わない。
いや、言えない。
澪にとっても、ショックが大きすぎた。
神機・炎が真・神機を真っ直ぐ見据える。
「俺は火雷神だ。」
焔が手を前に出す。
その手には、黒く禍々しい種。
種が浮かび上がり、飛んでいく。
凪はそれを目で追っていく。
その先に人間がいた。
「やめろ!」
黒い種は人間の胸へ吸い込まれた。
「う……あああぁっ!」
全身が痙攣する。
「嘘だろ……。」
足元から黒い根が噴き出す。
絡みつき、膨れ上がる。
人間は怪獣へと変わった。
豪はその光景を信じられなかった。
次々と現れる怪獣。
街は火の海。
逃げ惑う人々。
誘導する仲間たち。
正に地獄絵図といった言葉が相応しい。
怪獣から引き剥がした人間も直ぐに根に包まれてしまう。
「何なんだ!これは!」
豪は叫ぶ。
しかし、怪獣は待ってはくれない。
「隊長!危ない!」
「くっ…!」
茜の声にとっさに対応できた。
武尊は攻撃を回避していく。
四方八方から攻撃が飛んでくる。
それを斬り伏せ、撃ち落としていく。
茜もバギーのガトリングで応戦するが、焼け石に水だった。
見渡す限り怪獣。
「逃げ場もない…。」
茜が独りごちる。
レイは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「万事休す…か…。」
豪は始めて自分が震えていることを感じた。
焔が怪獣を生み出すところを目の当たりにした。
その事実を受け入れられない。
「どうして…?」
凪のその言葉に焔は天を仰ぐ。
「これが俺の宿命だ。
忘れてはいけない。」
「宿命って…。」
何のことか分からない。
それより、この状況が分からない。
凪は頭が混乱する。
「焔…。」
澪は腑に落ちるところもあった。
あの赤い眼。
木の根元にいた理由。
捨てられたのではなかったとしたら…?
「あなたは最初から分かっていたの?」
澪が焔に聞く。
焔が二人に顔を向ける。
「思い出したんだ。
この勾玉に触れたとき…。」
焔の中で勾玉を手にした時の情景が浮かぶ。
琥珀の勾玉に触れる焔。
好奇心からだった。
焔の中に何かの記憶が流れ込む。
「俺にはやるべきことがあった。」
焔の手にある勾玉を握る。
「忘れていただけだった。」
ミズホノメが。
澪が炎に焼かれていく記憶が蘇る。
「だから…。」
記憶を取り戻した焔は、各地を巡った。
禍々しい木に眠る雷神たちを、一人、また一人と目覚めさせていった。
「兄様達を呼び起こした。」
焔は振り返る。
大雷神率いる七雷神。
怪獣を生み続けている。
「全ては御母様のため…。
分かってくれるよね?」
焔は真っ直ぐと澪を見据える。
「姉様。」
「分からないよ…。
いっぱい人が犠牲になったのよ?」
澪は焔の心に訴える。
「雷神が現れて、いっぱい怪獣が暴れて…。」
ここまで沢山の怪獣と戦った。
それが焔の仕業だと、澪も信じられなかった。
「あの優しくて、甘えん坊の焔が…。」
澪は俯く。
焔との生活が胸を締め付ける。
焔は唇を噛む。
「あの時とはもう違う!
俺は火雷神だ!」
焔の顔が悲しみに包まれていく。
「姉様なら分かってくれると思ったのに…。」
歯を食いしばる。
その時。
各地の怪獣が止まる。
各怪獣の根が地下に伸びていく。
そして、急激に悪意が流動し始めた。
怪獣が呻くように咆哮を上げる。
「なんだ…?」
凪が行く末を見る。
澪は手で顔を覆う。
「ダメ!」
怪獣の中の人間から悪意が地下に激しく流れていく。
人間がミイラになっていく。
怪獣は枯れ、地下に還元されていった。
焔の口角が上がる。
「始まるよ。」
根が地下に伸びていく。
土をかき分け進んでいく。
真っ暗な空間に出る。
その空間の中心には一際大きな幹。
その幹は天まで届いていた。
そこに根が接続されていく。
根が蠢く。
人間から吸収された悪意が幹に送られていく。
鼓動のごとく。
幹の根元には膨らみがあった。
今は静かに動くのみ。
そこに栄養が蓄えられていく。
膨らみが脈動する。
次第に活動的になっていく。
膨らみから何かが産み落とされる。
それは地上に続く洞窟へと進んでいく。
膨らみの中。
何かが目覚める。
その何かは不気味に口角を上げた。
地下が揺れる。
地震ではない。
「今度は何だ…!」
凪は辺りを見渡す。
神機・炎が指を指す。
その指の先。
澪の神社。
「神社…?」
凪が神社に目を向ける。
「その…先…!」
澪は指し示す先が分かった。
「凪!」
凪は真・神機を飛び上がらせる。
澪の神社の後方。
大きな木より向こう。
山の麓。
地面が盛り上がる。
岩盤が砕ける。
巨大な岩が、地面を押し上げるように姿を現した。
「あれは何だ?」
凪が疑問を口にする。
神機・炎が横に並ぶ。
「姉様が一番知っているはず。」
焔の声が聞こえる。
「大岩…。」
澪が恐れながら言う。
「あれが大穴。」
澪の血の気が引いていく。
「御兄様の死んだ場所…。」
凪は信じられないといった顔で大岩をみた。
七雷神が配置につく。
「何をする気だ!」
凪は真・神機を動かす。
「やらせるか!」
神機・炎が遮るように前に出る。
「焔!なにやってんだ!」
凪が怒鳴る。
「兄様達のジャマはさせない!」
神機・炎が飛び込み、真・神機の顔面を殴りつけた。
「ぐっ…!
この野郎!」
真・神機も殴りかえした。
「やめて!」
澪のその言葉は二人に届いてはいなかった。
二柱の巨体が激突し、衝撃波が周囲の木々を揺らす。
大雷神はそれを見上げる。
「珍しく火が熱くなっているな…。」
そして、大雷神が六雷神を見る。
「遂にこのときが来た!」
大雷神が拳を握る。
「封印され、幾星霜。
このときをどれだけ待ちわびたことか…!」
残りの六雷神が力強く頷く。
「さあ…!」
大雷神が手を突き出す。
大雷神が黒い靄に包まれていく。
黒雷神。
土雷神。
次々と靄に包まれていく。
その靄は黒い塊となって、一つになっていく。
「御母様…!」
七柱の雷神の声が重なる。
黒い塊が脈打つ。
やがて、その表面が裂けるようにうねり始めた。
地響き。
空気が揺れた。
そこに七首の巨大な龍が現れた。
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