18話 弟君 18-3
六雷神が大雷神のもとに集う。
「火がどこにも…。」
黒雷神が跪き、答える。
「良い…。」
大雷神は立ち上がる。
「火がおらずとも、今回は我らだけで事を成す。」
呆れたように六雷神を見渡す。
「末のものは困りものであるな。」
失笑が辺りを包む。
「しかし…。」
大雷神は天を仰ぐ。
「やつの苦しみは我々の比ではない。」
再び、六雷神を見る。
それぞれ思うところがあるようだ。
大雷神が腕を前に出す。
そこには大量の種。
「この国を悪意で満たそう。」
六雷神が各自に種を取っていく。
「御母様に喜んでいただこう。」
六雷神は静かに頷く。
雷鳴が轟く。
次の瞬間、その姿は闇へと消えていた。
豪はパレードの日、報告書作成に追われていた。
(こういうのは苦手なんだよな…。)
そう思いつつ、パソコンに向かう。
ふと、顔を上げる。
レイは何食わぬ顔で書類を作成している。
こういうことは得意なのだろう。
(茜は…。)
眉間にシワが寄っている。
顔が画面に近い。
(あいつは俺と一緒だな。)
豪の口角が少し上がる。
しかし、苦手とばかり言ってるわけにはいかない。
怪獣に対しての武尊の成果と有用性。
怪獣の中に人間いた理由。
種やそれを植えた謎のもの。
全て纏めないといけない。
自然とため息が出る。
「もう!隊長!
ため息何回目ですか!」
と言いつつ、茜もため息をつく。
「お前もだ。」
レイが冷静にツッコむ。
茜が膨れる。
事務所に温かい空気が流れた。
その時。
怪獣アラートが鳴る。
不謹慎だが、報告書から解放される。
そう思ったのも束の間だった。
「どこだ?」
豪がレイに聞く。
レイの目が驚きの顔で固まっている。
「どうした?」
そう聞きつつ、レイに近づいていく。
『六体の怪獣が各地に出現。』
「六体!?」
顔が青ざめる。
「すぐに出るぞ!」
茜とレイに指示を出し、豪はパイロットスーツを持つ。
そして、武尊のもとに向かった。
辺りは火の海と化していた。
黒雷神はその光景を見下ろす。
怪獣が街を破壊していく。
人々は叫び、逃げ惑い、互いを押しのける。
黒雷神は静かに口角を上げた。
「やはり人間は愚か。
恐怖は憎しみを生み、憎しみは悪意を育てる。」
「そうだ……。
もっと悪意を生み出せ。」
黒雷神は両腕を広げ、眼下の街を見下ろした。
「御母様の糧となるのだ。」
黒雷神の口元がゆっくりと歪んだ。
各地で雷神が生み出した怪獣が暴れる。
「ホッホッホ。」
土雷神が髭を擦る。
若雷神は飛び跳ねる。
自分が生み出した怪獣の暴れる様を見る。
「いけいけ!」
鳴雷神も析雷神も伏雷神も街が火に覆われていく様を眺める。
そして、不気味に脈動する根。
悪意が蠢き流れていく。
大雷神が地上に降り立つ。
蠢くその根に触れる。
「御母様…。」
大雷神の記憶が蘇る。
八首の影が根から産み落とされる。
八つの影は互いに絡み合い、
やがて八つの首を持つ龍へと姿を変えた。
根に絡まれた御母様。
その姿は朽ちている。
御母様が一際大きい首の頬に触れる。
「われをこのような姿にした人間共に復讐するのだ」
八首の龍が咆哮を上げる。
そして、地上へと向かった。
「御母様…。
必ずや、あなたに…。」
その時。
空を切る光が現れる。
「来たか!神機!」
大雷神は高揚感に包まれる。
「戦いの時間よ!」
神機が地上に降り立った。
「六体!」
凪と澪は驚きを隠せなかった。
多くの怪獣が出てきたことはあったが。
「あのときは、中に人はいなかった。」
凪が個々の怪獣を見る。
「今回は別の怪獣みたい」
澪も見渡しながら言う。
「一体ずつ助けていた他の街が壊される。
間に合わない…。」
今まで凪は一人ひとり向き合ってきた。
しかし、今回は同時に六体。
つまり、六人の人間が同時に怪獣になっている。
凪のやり方だと、対処しきれない。
「とりあえず、やれることをやるしかない。」
聞き覚えのある声が響く。
「……!」
焔の乗った神機が空から現れた。
御兄様の神機が動いている。
神機の装甲は酷く傷ついている。
しかし、戦えないことはなさそうだ。
「いけるのか?
っていうか、何で神機に乗れるんだ?」
怪獣の攻撃。
「そんなこと言ってる場合じゃない!
来るぞ!」
焔が叫ぶ。
神機は剣を抜く。
真・神機も剣を抜く。
遠くに武尊が見える。
(豪さんも来てくれた。)
六体。
助けたい人間も六人。
だが、時間はない。
「どうにかするしかない。」
凪は真・神機を怪獣に突撃させた。
真・神機は怪獣に取り付く。
中の人の感情が流れ込んでくる。
「その人凄く怒ってる。」
澪が感情を読み取る。
「理不尽…。
プライベートはなかった…。
会社の奴隷…。」
澪の言葉を凪が聞く。
「……分かる。
でも、このままじゃ駄目なんだ。」
その時。
別の怪獣の攻撃。
「ぐあああああ!」
真・神機は地面に叩きつけられる。
「くっ…!
やはり、対処できない。」
立ち上がる。
周りを見る。
二人とも苦戦しているようだ。
武尊が人間を無理矢理引き剥がす。
「ああ…!」
凪は唇を噛む。
豪の判断は正しい。
軍人ならそうする。
それは分かる。
でも、それでは解決にならないのは前回の戦闘で知っているはずだ。
無力化はできるかもしれない。
しかし。
凪が迷う。
一瞬の隙ができた。
怪獣の根が迫る。
「しまっ…。」
一閃。
怪獣が真っ二つになる。
そこには神機がいた。
「焔…。」
凪が神機を見つめて言う。
焔は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
(何でだ…。)
「サンキュー。焔。」
凪が言う。
だが、焔は答えない。
「焔…?」
澪に嫌な予感が過る。
神機が静かにこちらを向いた。
日本中に雷鳴が響く。
地中から、蠢く根は次々と怪獣を生み出していく。
「何!?」
凪が周りを見て驚く。
「怪獣がこんなに沢山…!」
澪も口に手を当てて、信じられないといった様子だ。
「兄様達だ。」
焔の声。
「兄…様?」
凪は焔の言っていることが分からなかった。
「兄様達が国中に怪獣を生み出している。」
神機が立ち上がり、ゆっくりと離れていく。
「焔…。」
澪が絶望の表情で呟く。
「焔?」
神機から根が噴き出る。
そして、欠損した部分を修復していく。
「俺は焔じゃない。」
神機に雷が落ち、燃え上がる。
背中。
腕。
各部位に炎を纏っていく。
それはもう神機と呼べなかった。
炎の化身。
「俺は…。」
「火雷神だ。」




