18話 弟君 18-2
18-2
神社の裏。
そこには一際大きな木がある。
澪はそこに行くのが好きだった。
御母様に会える。
そんな気がして。
ある日、澪がその木に行くと違和感があった。
木の根元。
そこにいたのは赤ん坊。
小さな男の子だった。
澪は慌てて近づく。
そして、優しくその赤ん坊を抱き上げた。
「何で…?」
澪は辺りを見渡す。
しかし、誰もいない。
「どうしてこんなところに……。」
澪は赤ん坊を見つめる。
「まさか…捨てられたの…?」
心配顔になる。
自分が御母様に拾われたことを思い出す。
そして、記憶がよみがえる。
優しい手。
暖かく包み込まれる。
そして、御母様の優しい笑顔。
澪は胸の奥が温かくなるのを感じた。
(御母様……。)
この子を育てなければ。
そんな思いが自然と湧いてきた。
優しく微笑む澪。
その子も澪を見て、笑う。
その子の眼は燃えるような赤だった。
「お前…、焔なのか…!?」
凪は目を見開く。
「ああ…。」
焔が頷く。
澪が小さい手で愛おしそうに焔の頬を撫でる。
「お前…!どこ行ってたんだよ!」
凪は走り寄り、焔の肩を掴む。
「俺も澪ちゃんも心配してたんだぞ!」
焔は凪から目を逸らす。
「ちょっとな…。」
「ちょっとってな。お前!」
心配し続けていた澪の姿を見てきた凪には、その一言では納得できなかった。
焔の肩を揺する。
澪が二人の間に割って入る。
「凪。ありがとう。
でも、そんな剣幕じゃ焔も話せないよ。」
澪が愛おしそうに二人を見る。
「昔みたいね!」
笑顔になる。
「中でご飯にしよう!」
澪は張り切って神社の中に入る。
凪は焔の背を押し、神社の中へ入った。
その背中から、どこか拭えない違和感を感じながら。
焔が拾われて数年後。
「御姉様!」
焔は神社の境内をやんちゃに走り回るくらい成長していた。
澪を御姉様と呼び、慕っていた。
焔が澪に抱きつき甘える。
「はいはい。今日は毬で遊びましょう?」
焔が笑顔になる。
二人並んで澪が鞠を投げ上げて見せる。
「ほら。練習してみましょう?」
澪が鞠を焔に手渡す。
焔は鞠が苦手だった。
「できないよぉ…。」
焔は何度か投げ上げるが、上手くできない。
澪は優しくそれを教える。
「何してるの?」
突然、声をかけられた。
驚く二人。
顔を向けると一人の男の子。
「どこから入ってきたの?」
澪が目を丸くして聞く。
男の子はにっと笑った。
それが凪と澪と焔の出会いだった。
澪は嬉しそうに料理を作る。
凪と焔の前に、好きだった料理が並んでいく。
凪は懐かしみながら、料理を持ち上げる。
「これ、好きだったよなぁ…。
お前と取り合いしたよな。」
凪は口に放り込む。
「どっちが多いって喧嘩したな。」
焔も箸で摘み上げる。
「懐かしいね。」
澪が味噌汁を持ってくる。
手を合わせる。
「いただきます!」
三人はご飯を食べ始めた。
凪と焔は喧嘩した覚えしかない。
二人して張り合った。
澪に良いところを見せるために。
三人はその話を肴に食べ進めていく。
「最初の手毬の時に上手くやったもんだから、焔のやつ張り合ってさ。」
凪は意地悪く笑う。
「その後は俺が勝ってた。」
焔が口角を上げて、ご飯を口に入れる。
「俺も買った事あるし!」
凪が焔に言う。
澪はそれを微笑ましく見つめる。
いつもそうだった。
そして、どれだけ喧嘩しても二人は親友だった。
凪が俯く。
「何でいなくなった?
あの日からだよな?」
澪が慌てる。
「凪…!」
凪は澪が聞けないことを率直に聞く。
焔が箸を置く。
そして、天井を見上げた。
出会いから数年後。
二人は成長し、澪より大きくなっていた。
凪と焔のいつもの競争。
ボールを境内に引いた線より中に、多く入れた方が勝ち。
キッカーとキーパーに分かれる。
一人は蹴り入れ、一人はそのボールを防いでいく。
0-0。
接戦だった。
凪がボールを蹴る。
ボールが明後日の方向に飛ぶ。
「やべ!」
凪が慌てる。
ボールが神社の方に入ってしまったからだ。
「コラッ!」
澪の怒る声が聞こえる。
凪は萎縮する。
「下手くそ〜。」
焔は囃し立てて、ボールを取りに行く。
突然、雲行きが怪しくなる。
そして、雷が鳴り始める。
雨が降り始める。
凪は急いで神社の中に避難する。
焔が何かを手に持ち、目を見開いている。
「焔…?」
雷鳴。
どこかに雷が落ちた。
「あの後に、お前はいなくなった。」
凪は焔を真っ直ぐ見据える。
「何があったんだ?」
蝋燭が揺れる。
焔が俯く。
焔はゆっくり息を吐いた。
覚悟を決めたように口を開く。
「使命を思い出したんだ。」
焔は琥珀の勾玉を取り出す。
それは澪が渡したもう一つの勾玉。
御兄様の神機の勾玉。
「使命…?」
澪が焔に聞く。
その顔は不安でいっぱいだ。
「御姉様…。」
焔が澪を見る。
勾玉を強く握りしめた。
「俺は……。」
雷鳴。
怪獣アラートが鳴る。
凪が澪と顔を合わせる。
「澪ちゃん!」
澪は頷いて、焔に目を向ける。
「焔はここで待ってて!」
凪と澪は走り出す。
「御姉様!
俺も出るよ。」
焔の手の中にある勾玉が不気味に光った。
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