16話 武尊 16-2
女が担架で運ばれる。
基地から出てきた凪と澪は担架に走り寄る。
「待ってくれ!」
そして、無理矢理背中を見る。
女の背中には根の痕跡はなかった。
澪と顔を見合わせる。
凪は救急隊に押し退けられ、よろける。
女が担架で運ばれていく。
モニターで見た、女に入っていく黒い根。
あれが見間違いだったとは思えない。
(本当に終わったのか…?)
心配が募っていく。
「行こう。」
澪が凪の手を引く。
女は基地に併設されている研究室に連れていかれるようだ。
凪と澪はそれに同行した。
豪は武尊のモニターで凪の焦りを見ていた。
「何だ?」
(何かあったのか…?)
豪は眉間に皺を寄せる。
ハッチを開ける。
武尊の手に乗り、プログラムされた動作で豪を地上に降ろす。
地上には、茜とレイが待機していた。
「助かった!」
茜とハイタッチする豪。
茜は照れている。
レイは整然と起立している。
「お前の状況判断も良かったぞ!」
「ありがとうございます!」
敬礼する。
(良いチームだ)
豪はそう思う。
そして、二人の先を見る。
豪チームを称える声が聞こえる。
群衆と記者団が待ち受けている。
「もう一仕事か…。」
茜に促され、群衆の元へ向かった。
凪と澪は研究室にいた。
ガラスの向こう。
ベッドに寝かされている女。
女は沢山、機械をつけられている。
その周りには白衣を着た人々。
心音を告げる電子音だけが鳴っていた。
「終わったと思う?」
凪の言葉に首を横に振る澪。
「あの女の人の中に、もう種がなくなってる可能性は?」
凪がもう一度質問する。
「分からない…。」
二人共分かっている。
種が残っているであろう事は…。
革靴の乾いた足音が近づく。
凪が振り返ると、軍服の男が近寄ってきていた。
「何を心配しているのです?」
軍服の男がガラス越しに女を見る。
「私共も救出した。」
ニヤリと笑う軍服の男。
「そうかもしれません。
でも…、嫌な予感がするんです。」
凪の心配を軍服の男は鼻で笑う。
「杞憂ですよ。」
軍服の男は立ち去っていく。
心音を告げる電子音だけが病室に響いていた。
凪の胸騒ぎは消えなかった。
女はベッドに寝かされていた。
女の胸の奥で、黒いものが脈打つ。
心臓の鼓動に合わせるように、それは少しずつ膨れ上がっていく。
テストパイロット。
茜。
2号機は私のものなのに。
「こいつ、テストパイロットだったやつじゃないのか?」
研究員の一人が言う。
「茜ちゃんと張り合ってた?」
相方が作業を続けながら答える。
「そうそう!
2号機の選考で茜ちゃんに負けた。」
研究員も作業を続ける。
「それで辞めたんだっけ?」
「そうなんだよ。
でも、何で怪獣に?」
相方は肩を竦める。
「さあ?」
(そう…。
私は負けた。)
私は2号機がほしい
2号機は私のもの…!
女の黒いものがどんどん膨らんでいく。
茜なんかに…
渡したくない!
若雷神はベッドに横たわる女を見る。
「人間って何でそんなことで怒るの?」
ベッドの周りを飛び回る。
「何で?何で?」
純粋に聞いている。
研究員は気づかず作業をしている。
「うーん…?」
顎に手を当てて考える。
「あ…!御母様を御兄様に取られる時と一緒かな?
それは僕でも怒っちゃう…。」
若雷神は何かを閃く。
「行こう!」
若雷神は女の手を引く。
女の指先がぴくりと動く。
ゆっくりと上体を起こし、焦点の合わない瞳で立ち上がった。
研究員たちが息を呑む。
「え……?」
女は何事もなかったかのように歩き始めた。
凪は帰ろうとしていた。
心配事は尽きない。
突然、サイレンが鳴る。
職員が慌ただしく走り始める。
「なんだ?」
凪は職員の顔にただならぬものを感じていた。
不意に女のことが頭を過る。
「澪ちゃん!」
澪は頷く。
凪と澪は走り出す。
研究室に戻る。
静かだった。
「…?」
人の気配がない。
あるのは、黒焦げの研究室員の死体が二つ。
「凪!」
廊下の先で澪が指をさす。
そこには、女がゆっくりと歩いていく姿が見えた。
「やっぱり終わってない!」
凪と澪は走って追いかけた。
「2号機…」
女は虚ろな目で目的地を目指す。
若雷神は行く手を阻むものを排除していく。
雷鳴。
職員が雷に倒れていく。
「こっちこっち!」
若雷神は目的地に誘導するように手招きをする。
鼻歌を歌いながら、地下に降りていく。
「ここでしょ?」
若雷神は笑顔で扉を開ける。
そこは格納庫になっていて、まだ作りかけの武尊が二体いた。
「2号機…!」
女の目に光が宿る。
武尊2号機に手を伸ばす。
「これならもっと面白くなるね!」
「ここか!」
凪が格納庫に入る。
若雷神の顔が曇る。
「誰?邪魔をしないで!」
雷を呼び寄せる。
それを凪に放つ。
凪はその雷攻撃を避けていく。
「当たれよ!」
若雷神がイラつく。
その後ろで女が武尊2号機に取り付いた。
「やめろ!」
凪が叫ぶが、もう止まらない。
女から黒い根が這い出てくる。
その根は蠢き、武尊2号機を取り込んでいく。
「よそ見してる場合じゃないよ!」
若雷神の手に雷ボールができる。
そして、それを凪に投げる。
「ぐっ…!」
澪が凪を助ける。
「ありがとう!」
凪が澪の礼を言う。
「御姉様も邪魔するんだ!」
地団駄を踏む若雷神。
女がどんどん武尊2号機を取り込んでいく。
そして、武尊の中に吸収されていく。
若雷神はその光景を見る。
「御姉様!邪魔しないで!」
澪に指差す若雷神。
「僕の遊びを取らないで!」
雷鳴。
若雷神が消える。
武尊2号機の全身に黒い根が走る。
装甲の隙間から禍々しい根が蠢いた。
ゆっくりと頭部が持ち上がる。
武尊2号機の目が、不気味な紅に染まった。
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