2話 母の想い 2-1
怪獣は、町を蹂躙しながら進んでいく。
崩れる建物。
逃げ惑う人々。
響く悲鳴。
その巨体の中心には、まだ“母”がいた。
全身から、黒い根が溢れ出している。
皮膚を裂き、脈打つように蠢く根。
けれど、その腕の中では、勇斗が静かに眠っていた。
「大丈夫……」
母は、勇斗を抱きしめる。
「ママが……守るから……」
次の瞬間。
怪獣の身体から、無数の根が噴き出した。
伸びた根が、周囲の建物を次々と破壊していく。
近づくな。
奪うな。
触れるな。
それはまるで、世界のすべてを拒絶するかのようだった。
「御母様……」
澪は、町を蹂躙する怪獣を見据えていた。
その傍らには、先ほどまで石像だった巨人。
まるで澪と呼応するように、静かに怪獣を見つめている。
「今……そこから出してあげる」
澪は胸元の勾玉を握り締める。
次の瞬間。
琥珀色の光が溢れ、澪の身体は石像の胸へ吸い込まれていった。
内部は、異空間だった。
足場も、壁も、空もない。
ただ光だけが広がっている。
澪が視線を向ける。
それに呼応するように、巨人の視界が町を映し出した。
「……っ」
凪は息を呑む。
理解が追いつかない。
脳が現実を拒絶している。
「今、行きます」
巨人から、澪の声が響く。
「澪ちゃん!」
凪は思わず叫んだ。
「危ないから離れていて」
澪の声は静かだった。
けれど、どこか悲しげだった。
「私が……あれを止める」
その瞬間。
巨人が地面を砕き、怪獣へ向かって飛び出した。
怪獣は、依然として町を蹂躙していた。
どうして、こんなことになったんだろう。
最初は幸せだった。
夫も、家事や育児を手伝ってくれていた。
「ありがとう」
その言葉だけで、頑張れた。
でも、いつからだろう。
その言葉は、言われなくなった。
気づけば私は、召使みたいになっていた。
勇斗の世話をするのは、いつだって私だった。
義母と夫は、可愛がるだけ。
泣けば、私に押し付ける。
それでも。
勇斗の泣き声は、愛おしかった。
勇斗は、私の救いだった。
だから。
それを……
「奪うなぁぁぁぁ!!」
怪獣が、感情に呼応するように咆哮を上げる。




