13話 御母様 13-1
神機は湖に落下した。
中で気絶している凪と澪。
神機の中に水が入ってくる。
その水が2人を包む。
そして、凪は水に流されていく。
澪も水に流される。
離れていく。
(澪ちゃん…!)
凪は手を伸ばす。
手が届かない。
二人は別々の方向に流されていった。
目を覚ますとそこには龍がいた。
いつも、助けてくれる龍。
今日は、凪に合わせて人間サイズだ。
その龍が光る。
眩い程の光。
しかし、温かい。
その姿はゆっくりと人型へと変化していく。
「御兄様…?」
凪は何故かそれを認識できた。
「御兄…様?」
澪は龍が変化した姿を見て、喉が詰まる思いがした。
感情が押し寄せてくる。
あの時の優しい笑顔だった。
涙が溢れる。
「御兄様…!」
澪は御兄様に抱きつく。
御兄様はあの時と同じ温かい手で澪の頭を撫でる。
一緒にいた時のように…。
「苦労をかけたね。」
優しい言葉。
澪は言葉を返せなかった。
ただ何度も頷く。
(ああ…。本物の御兄様だ…。)
澪はゆっくりと噛み締める。
御兄様は優しく微笑んだ。
凪は御兄様と対峙する。
澪から聞いた神話の人物。
もう一柱の神機を操っていた人。
澪の御兄様…。
「無礼者!」
迫力のある叱責。
御兄様は腕を組み凪を睨む。
「前回は湖で泳ぎ、今回は神機ごと突っ込んでくるとは…!」
お小言を言いつつ、御兄様が凪の目を真っ直ぐ見据える。
「すみません…。」
凪は申し訳なさそうに謝る。
確かに失礼だとは思う。
「神機の扱いもなっとらん!
何だあのごちゃごちゃは…!」
ごちゃごちゃ。
凪は最初何のことか分からなかった。
しかし、コクピットの中のことかと思い至る。
確かに最初は不思議な空間だった。
カッコいいと思って、凪の想像でコクピットを作った。
「神機はただの機械ではない。」
ゆっくりと諭すように言う。
凪もそれは分かっている。
神話時代に造られたロボット。
あの空間。
意のままに操れ、剣を想像から出せる。
普通ではありえない。
「操者よ…。お前は神機と一つにならなければならん。」
御兄様がゆっくり目を瞑る。
何かを決意するように息を吐く。
「神機の声を聞くのだ。」
「神機の…声?」
御兄様が消え、今いた空間が揺らいでいく。
そして、目の前が光に溢れていく。
澪は御兄様と縁側に座っていた。
何故か現れた神社。
しかし、そんなことは関係ない。
御兄様と話せることが嬉しいのだ。
「御兄様はずっとここにいたの?」
心なしか澪も子供に戻ったようだ。
「ああ…。」
御兄様がゆっくりと頷く。
優しい笑顔で澪を見る。
「私…。」
下を向く澪。
「御兄様がいなくなって…、御兄様がいなくなったことを認められなくて…。」
目にいっぱい涙をためる。
「ここに来られなかった…。」
涙を流し、御兄様を見る。
「ごめんなさい…。」
「いいんだ…。」
御兄様は澪の背中を優しくさする。
「こうやって…、澪が心の整理ができて…、また会えて嬉しいよ。」
「私も…。」
澪は大泣きする。
凪は暗闇の中を歩く。
あの光が収まった後、凪は真っ暗闇の中に放り出された。
ここがどういう場所で、今何をすればいいのか分からない。
凪は闇雲に歩く。
凪の足音だけが響く。
自分の呼吸しか聞こえない。
神機の声を聞く。
そう言われたが…。
「どうすればいいんだよ。」
凪は歩みを進める。
暗闇の中を歩くと不安になる。
色んな考えが浮かんでは消える。
救う。
そんなことが俺にできるのか?
と考えてしまう。
その考えを消し去る。
今すべきことは、神機の声を聞くこと。
そう言い聞かせて、歩みを進める。
不意に目の前に鈍く光るものが目に入る。
凪がよく見たもの。
勾玉だ。
凪と同じくらいの勾玉がそこにあった。
勾玉に近づいていく。
「ん?」
中に何かがいる。
目を凝らす。
そこには、どこか神々しい女性が静かに眠っていた。
澪は一頻り泣いた後、御兄様に向き直る。
真剣な目をしている。
御兄様はゆっくりと神社に視線を移す。
躊躇っている。
真実を話すことを。
しかし、澪はそのために来た。
真実を話す時が来たのかもしれない。
御兄様は静かに息を吐いた。
「御兄様…、あの時、何を見たの?」
澪はもう向き合う覚悟は出来ている。
御兄様はゆっくりと語り始める。
あの日の…。
大穴であった出来事を…。




