12話 快楽の果て 12-3
「はは…ははは…」
徐々に高笑いし始める男。
前のめりで試作機のコクピットを見る。
怪獣の攻撃で、損傷した胸部分にコクピットがある。
そこは中の豪が見えるほど、抉られていた。
回路がスパークしている。
豪は頭から血を流して、動きがない。
男の目が血走る。
「俺がやった!」
手が震えている。
それは怖じ気づいているのか。
武者震いか。
「ははは…!」
死という最後の砦。
人がまず到達できない領域。
そこに男はいた。
「これが、誰にも味わえない快感……!」
傷つけて興奮していた自分が馬鹿らしいと思う。
「こんなに気持ちいいとは…!」
男は高笑いしながら、腕を振り上げる。
怪獣は追い打ちをかけるように切り刻んだ。
豪に追い打ちをかけるの後からだよね
「ご、豪さん…。」
凪も虫の息だった。
肩で息をする。
澪も限界が近い。
析雷神の手刀は受け止めるたび、神機に電気が流れる。
避けようとしても、素早い動きで翻弄される。
攻撃しようにも小さく、捉えられない。
その上、豪がやられた。
凪の気がそれる。
「よそ見してる場合じゃないわよ!神機ちゃん!」
析雷神の雷の手刀。
一閃。
袈裟斬り。
「ぐあああああ!」
電気が走る。
目が霞む。
意識を手放してしまいそうだ。
「凪…!」
澪の声が聞こえる。
「救うって約束したんだ…。」
操縦桿を握る手に力を込める。
「うおおおおお!」
拳を析雷神に突き出す。
析雷神はその拳を華麗に躱す。
そして、ニヤリと嗤う。
「終わり…。」
析雷神が神機の腹に手を添える。
雷撃。
神機は地上に叩きつけられた。
豪は神機が落ちてきた衝撃で目を覚ます。
「うう…。」
血で前が見えない。
起き上がろうとするが、痛みで動けない。
神機が横に倒れているのが、見える。
「くっ…。神機…!」
神機もやられた。
そう理解する。
しかし。
パネルを操作する。
「し、神機…。」
穴の開いたコクピットから空を見上げる。
析雷神が空に手を挙げている。
黒雲が寄り集まる。
雷鳴。
(や、ヤバい…!)
豪は死を悟った。
御兄様の古墳。
その脇には、湖があった。
そこに眠る龍。
龍の目がゆっくり開いていく。
「世話のやける…。」
龍が湖を飛び出す。
水飛沫があがる。
「しかし…。死なせるわけにはいかんな…。」
戦場を見据える。
「厄介な者がおるの。」
龍は一つ息を吐く。
「わしの力も最後かもしれんの…。」
そして、戦場に向かった。
凪は空を見上げる。
析雷神が黒雲を呼んでいる。
雷鳴。
黒雲の中を雷が走る。
「くっ…!」
力を振り絞って、操縦桿を握る。
澪は気絶している。
(また、守れなかった…。)
凪は覚悟を決める。
雷鳴。
(来る…!)
「諦めるな!」
黒雲を光が斬り裂いていく。
龍が飛来する。
そして、析雷神に噛み付くように突撃する。
「ぐっ…!」
析雷神は龍の攻撃を受け止める。
しかし、吹き飛ばされる。
「約束を違えたか?」
凪に向けて言う。
言葉が出ない。
諦めかけた。
しかし、首を横に振る。
「ならば、示してみせよ。」
龍が怪獣に向く。
怪獣が鎌を構えて、突撃してくる。
「奴は任せよ。」
龍が析雷神を見据える。
析雷神が髪を、かきあげて龍を睨む。
「第2回戦目といきましょうか!」
析雷神が言う。
龍と析雷神がぶつかっていく。
そして、凪は神機に剣を構えさせる。
怪獣を見据える。
「豪さんだけは守る!」
「ぐっ…!」
析雷神は龍の突撃を受け止める。
そして、雷の手刀で応戦する。
龍はその攻撃を華麗に避けていく。
「あなた…何者!」
析雷神は手刀を繰り返す。
龍は華麗に避けながら、答える。
「お主もよく知っている者よ。」
そう言うと、析雷神に絡みつき締め上げる。
「がは…!くっ…!」
雷雲を呼ぶ。
裂雷!
斬り裂く雷を析雷神ごと落とす。
「がああ!」
離れる両者。
(身体が言うことをきかん…。)
龍の目が霞む。
(やはり、癒えておらぬか…。)
「私が知ってるってどういうことかしら?」
析雷神も肩で息をする。
「私に龍のお友達なんていないわよ。」
強がってはいるが、析雷神のダメージも大きい。
(この力ももう保たんな…。)
龍は挑発するように笑ってみせる。
「これに見覚えがあろう?」
龍が光を放った。
神話の時代と同じ、あの優しい光が戦場を包み始める。
析雷神は防御姿勢を取る。
「あなた…!その光…!」
怪獣の鎌と神機の剣で鍔迫り合いをする。
そして、剣を打ちあう。
「くっ…!澪ちゃん…。」
澪は後ろで気絶している。
心配だ。
その上、澪が気絶していては怪獣の中を読めない。
豪も心配だ。
生きているのかも確認できない。
気がそれる。
神機の腹に攻撃が入る。
衝撃。
「くっ…!とりあえず、今は!」
神機は怪獣の攻撃を避けて、懐に入る。
そして、怪獣の両腕を斬り落とす。
怪獣の咆哮。
空が光に満ちていく。
龍の光だ。
凪は神機を操作して、怪獣を持ち上げる。
怪獣が暴れ始める。
光に焼かれれいるようだ。
「ギャギャ…!」
神機は怪獣を投げ飛ばした。
「この光…!」
析雷神は察する。
自分たちが封印された時の光。
自分たちを種に戻し、浄化する光。
「伏はこれで…!」
析雷神は撤退した。
男は光に焼かれていた。
「があああああ!」
(嫌だ…!嫌だ…!俺はもっと…!)
神機を見る。
そして、神機への恨みを募らせていく。
「神機…!いつもお前が…!」
男はナイフを取り出し、根を斬る。
そして、怪獣から脱出する。
怪獣の亡骸は光によって、消滅していく。
「神機…!」
男は神機を睨む。
「ぐっ…!」
男の中の根が蠢く。
「はは…!次は負けない…!」
男の目は血走っていた。
「…。」
とりあえず、何とかなった。
しかし、凪の中に色んな思いが巡る。
澪を気絶させた。
怪獣の中の人も救えなかった。
豪も…。
凪は操縦桿を殴る。
龍が近づいてくる。
「話がある。」
龍の存在が消えかかっているように見える。
「その者を送り届けたら、湖に来い…。」
それだけ伝えると、龍は消えてしまう。
「あ…。」
お礼を言えなかった。
その者と呼ばれた豪を見る。
動きがある。
急いで、神機から飛び出し豪のもとに駆け寄る。
「豪さん…!」
豪は声は出ないが、生きている。
「そこから出します!」
コクピットを開けて、中に入る。
「うっ…!」
豪は血塗れで横たわっていた。
そして、引き出そうにも壊れた計器に押しつぶされている。
凪は神機に乗る。
神機を操作して、試作機を抱き上げる。
そして、基地に飛び立った。
凪は豪を基地に送り届けた。
豪は救急隊によって、救出され引き出されていた。
大丈夫であってほしい。
しかし、凪にもうできることはない。
不意に意識が飛びそうになる。
張り詰めた緊張が解ける。
身体が激しく痛む。
凪はペダルを踏み込んだ。
最後の力を振り絞る。
神機は龍の湖に落下した。
大きな水柱が立ち上る。
水面は再び静寂を取り戻した。




