9話 愛の獣 9-3
伏雷神は怪獣の中を見通していた。
「ふふ…」
不気味な笑顔で、男と女のやりとりを見ていた。
雷鳴。
伏雷神の隣に黒雷神が現れる。
「あれで悪意が生まれるのか?」
黒雷神は甚だ疑問といった表情で問いかける。
「これからですよ…」
伏雷神は不気味に嗤う。
「見ていて下さい。もうすぐですよ…」
「期待が絶望に変わる瞬間がたまらない…。」
男の悲痛な顔を見つめる。
黒雷神は疑問に思いつつも、成り行きを見ることにする。
「楽しみだなぁ…」
伏雷神は男の膨大な悪意が爆発するのを想像する。
心底嬉しそうに口角を上げた。
凪は焦っていた。
「澪ちゃんヤバい!攻撃されちゃう!」
自衛隊の兵器が神機にを向き、臨戦態勢に入っているように見える。
「どうしよう…?」
凪は混乱していた。
何故、こんなことになっているのか分からなかった。
「神機を捕まえたいのかも…あの時も調査してたでしょ?」
凪は数日前の女怪獣の時を思い出す。
町に横たわる神機。
その周りで調査チームが忙しなく動いていた。
「うん…でも、今?」
自衛隊も怪獣の捜索をしていた。
なのに、神機を捕まえようとする。
「うーん…」
澪も分からなかった。
自分で言って、今じゃないことは理解できる。
「話してみよう。」
凪の言葉に澪は狐につままれたような顔になる。
「危険だよ!」
この状況で外に出る。
それがどういうことになるか、想像できる。
「うん…でも、この状況…どうにもならないよ」
澪もそれは分かっている。
「危なくなったらすぐに神機の中に戻って?
私もすぐに助けられるようにする。」
澪は不安でいっぱいだった。
「うん。ありがとう。」
凪は澪の顔を見て言う。
「何か顔に巻くものない?素顔で行くのもね…」
澪は一瞬考えて、天衣を取り出す。
「これでいい?」
「うん!いいよ」
凪は天衣をマフラーのように巻きつけ、口元を隠す。
「バッチリだね!」
そう言っても、凪もこれで変装できたとは思わない。
澪もそれは同じだった。
「ぷふっ…!」
2人は笑い合う。
一頻り笑ったあと。
不安が少し拭えた凪は一息つく。
「行ってくるね」
凪は神機の外に出た。
「あいつは…。」
豪は湖の奇怪な青年を思い出す。
一人で湖で水をかけて遊んでいた。
「あれで変装してるつもりか…?」
豪は疑問に思いつつも、戦闘機を寄せていく。
ハッチを開ける。
凄い風圧と轟音の中。
男が叫ぶ。
「私に敵意はない。
下でゆっくり話そう。」
豪にはそう聞こえた。
なので、サムズアップで答える。
すると、神機がゆっくり跪いた。
そして、男が乗った手をゆっくり地上に降ろしていく。
豪も戦闘機を地上に降ろす。
周囲の隊員たちも固唾を呑んで見守っていた。
戦闘機から降り、ヘルメットを外す。
そして、男に近づいていく。
男と豪は対面した。
凪はヘルメットを外しながら、近づいて来る男を見つめる。
そして、天衣を鼻まで覆うように調整する。
「あの人…。」
凪も気づく。
あの湖であった男だと言うことを。
「戦闘機のパイロットだったのか…。」
凪は独りごちる。
男と対面する。
凪は何を話せばいいのか分からない。
男が手を差し出す。
「俺は航空自衛隊所属、3等空尉の轟豪だ。よろしく。」
豪と名乗る男の手を取り、握手する。
「お前の名前は?」
豪の質問に面食らう。
名乗れないし、何も考えていなかった。
凪は声を低く喋る。
「名乗ることはできない。
すまない。」
努めて、尊大な感じを意識して喋る。
すまないなんて言ったことない。
「そうか。」
豪はあっさり引く。
凪はそれにも面食らう。
「この…ロボット…名前はあるのか?」
「俺たちは神機と呼んでいる。
それ以上は…すまない。」
(俺たち…?)
豪は違和感を感じる。
あの時も感じた。
湖で遊ぶ青年。
目線が横にいく青年。
あの時も何故か一人なのに一人ではない感じがした。
(どういうことだ?)
その疑問を持ちつつも質問を続ける。
「神機な…ここ最近、現れる怪獣…あれはなんだ?」
豪は直球にぶつける。
しかし、凪はその答えを殆ど持ってないのと一緒だ。
答えに苦慮する。
「実は私たちも、怪獣に関しては知っていることは少ない。」
とりあえず、凪は知っている情報を話していく。
「我らが知っている情報は中に人間がいること。
それと、人間が持つ悪意のようなもの…。
怒りや嫉妬などが怪獣のエネルギーになるということだけだ。」
豪は腕を組み思案する。
「どうやって、あなたたちは怪獣の中から人を救出する?」
これも言葉に詰まる。
澪のことは言えないし、凪も必死だった。
「それは…」
その時、無線が鳴る。
「怪獣出現!至急向かわれたし。」
凪と豪は顔を見合わせる。
そして、各機に乗った。
男は女の怯えた顔に不安になる。
「そっか…。喋れないよね。」
女の口元に巻いた根を外す。
「これで喋れるね。」
男はゆっくり近づいていく。
「ひっ!」
女は軽く悲鳴をあげる。
(ひっ?)
「何でそんな反応するの?」
「いや…。」
女は怯えながら首を横に振る。
明確な拒否。
男の顔が引きつる。
「あの時みたいに笑ってよ…」
女の天使のような笑顔が頭に過る。
「あの時、君は僕に優しかった。
笑顔を向けてくれた。
だから…。」
男は俯く。
「あなた…誰ですか?」
心底分からない様子で、怯えながら言う。
男は顔を上げる。
「え?」
「ぼ、僕だよ。
あの時、優しくしてくれて…
一緒に帰ったりして…」
男は数々の思い出を語っていく。
「知りません…。」
男の中で何かが弾けた。
「こんなに愛してるのに!
何で誰も分かってくれない!」
頭を掻きむしる。
男は妄想を語っていく。
「ほら!僕はこんなに愛して!尽くしてる!」
もう目の焦点が合っていない。
「僕を受け入れてよ…。」
ゆっくり根が伸びて、女に近づいていく。
「いや!」
女は男を押し返すように手を突き出す。
「…。」
沈黙。
「何で!なんで!ナンデ!ああああああ!」
怪獣は森の中を暴れまわった。
伏雷神は爆発した男を見つめていた。
「ひゃひゃひゃ…きた!」
嬉しそうに嗤う。
黒雷神は横で驚いていた。
「おお…凄まじい…。」
「来るぞ!」
伏雷神は横で叫ぶ。
怪獣に更に根が絡まっていく。
そして、姿が変容していく。
さながら、進化のようだ。
4足歩行から立ち上がる。
人型になった怪獣は禍々しさが増していた。
「ここまでとは…!」
黒雷神はビリビリくる悪意に恐れ慄いてしまいそうになるほどだ。
「僕の目に狂いはなかった…。凄い…。」
伏雷神はその人型怪獣を見つめる。
「さあ…人間どもを蹂躙しろぉ!ひゃひゃひゃ!」
伏雷神のその声に呼応するかのように、人型怪獣は町に歩き出した。




