9話 愛の獣 9-1
「何故、分かってくれない?」
男は困惑していた。
壁一面に貼られた好きな女の盗撮写真の中から1枚取る。
「何故、怖がる?」
男は愛おしそうに写真を撫でる。
「僕は純粋に愛しているだけなのに…。」
何かを閃く。
「そうだ!プレゼントしよう!」
男は腕を組んで、部屋を歩き出す。
「僕のものをあげたら、喜んでくれるだろうな。」
男は歪んだ笑みを浮かべる。
そんな男を伏雷神は見ていた。
「ああ…いいぞ…」
伏雷神も歪んだ笑みを浮かべる。
「愛を…欲しなさい…。」
種を取り出す。
「そして…悪意を…。」
いつの間にか、男の背後に現れた伏雷神は男の背中に種を埋め込んでいく。
「がっ…!」
雷鳴。
「さあ…どんどん、歪ませなさい」
伏雷神は根に包まれていく男を見つめる。
歪んだ笑みを浮かべ消えていった。
豪は怪獣出現の一報を受けて、ヘリに戻ってきていた。
調査隊も乗せて、すぐに出発する。
「今から、基地に戻って…間に合うのか…?」
豪は焦っていた。
他の隊員がいるとは言え、戦力は一機でも多いほうがいい。
「くっ…!」
豪は外を見ながら、気ばかりが焦っていた。
突然、大量の鳥が飛びたつ。
木々が揺れる。
「なんだ…?」
豪は注視する。
森の中。
神機が立っている。
「なに!?」
豪は窓に張り付いて、凝視する。
「あそこは…」
あの青年がいたところだ。
水着の青年の姿が頭に浮かぶ。
「まさか…?」
ありえない考えが頭をよぎる。
しかし、合点がいく。
神機が飛び出していく。
「損傷が直っている。修理していたのか?」
豪は神機の向かう先を目で追う。
向かっているのは、報告のあった町の方向。
豪はヘリのパイロットを急かした。
凪と澪は怪獣の元へ急行していた。
しかし、凪の頭は別のことに支配されていた。
「あの人…自衛隊の人かな?」
澪は考える。
「多分」
「神機を探してたのかな?」
凪が再度、質問を投げかける。
「多分」
澪は頷く。
2人の頭に過ること。
それは、凪が神機のパイロットだとバレたかもしれないということ。
(すぐに出たのは、まずかったかも…)
しかし、すぐに出ないと怪獣が人間を襲う。
と思い直す。
「凪。」
澪が正面を指さす。
指を差した先に怪獣が見える。
四足の怪獣で、何かを探すように町を踏みつぶしながら、歩いている。
「いた。」
凪は考えるのをやめる。
凪は操縦桿を握り直す。
今は考えている場合じゃない。
目の前には怪獣がいる。
そして、中の人を救うことに頭を切り替えた。
男は好きな女を探していた。
「はあ…」
女のことを思い、顔を綻ばせる。
胸の奥が温かくなる。
あの日から、彼女のことを考えない日はなかった。
「僕の…天使…。」
男は出会った時のことを思い出す。
男は町を歩いていた。
仕事の資料を沢山持ち、人混みを避けて歩道を行く。
突然、人とぶつかる。
飛び散る資料。
男は必死に拾う。
誰も見向きもしない。
いつものこと。
そう思っていた。
しかし。
「はい、どうぞ」
顔の前に資料の束が現れる。
ゆっくりと顔を見上げる。
美しく愛くるしい女の笑顔。
男には女が天使に見えた。
男はだらしなく締まりのない笑顔をする。
「はあ…」
そして、辺りを見渡す。
「今、会いに行くよ。」
怪獣は踏み荒らしながら町を蹂躙していく。
凪は神機を操縦し、怪獣の前に立ちはだかる。
怪獣の侵攻を止めようと押し返す。
凪は違和感を覚える。
「抵抗がない?」
今までの怪獣は接近するのに時間がかかった。
怪獣の抵抗があったからだ。
「どういうことだ?
こっちが眼中にないみたいだ」
怪獣を押し返しながら、凪が独りごちる。
「何これ…?」
不意に澪が呟く。
「澪ちゃん、どうしたの?」
凪が聞き返す。
しかし、返答が返ってこない。
澪も混乱している。
一拍置いて、澪が言葉を紡ぐ。
「今までは黒くてドロドロの感情が押し寄せてきてた…。」
澪はまた、一瞬考える。
「これは…純粋な愛?だけど…。」
凪は振り返る。
澪の眉間にしわが寄っている。
「純粋…純粋だけど…怖い…。」
「怖い?」
澪のつぶやきに凪は理解ができなかった。
男は神機を意に返さず、女を探す。
「どこにいるの?僕の天使…。」
怪獣は神機を押し返しながら、町を進んでいく。
胸ポケットから写真を取り出す。
女が居間で楽しそうに電話している写真。
「はあ…。美しい…。」
写真に見惚れる。
「そうだ…!家に行こう!」
突然、進路を変える怪獣。
家の場所は知っている。
いつも後ろから一緒に帰っている。
「いた!」
女は怪獣から逃げるため、家から走り去っていった。
男は喜び勇んで迎えにいこうとする。
「邪魔だなぁ!」
男が手を払う。
それに呼応するように、怪獣が神機を払う。
神機はよろけるも、再度向かってくる。
「僕の恋路を邪魔するなぁ!」
怪獣は神機に勢いよく突進する。
神機はビルに倒れ込む。
「これで邪魔者はいない。」
男は辺りを見渡し、女を発見する。
「やっと会えたね」
男は女を迎え入れるように手を広げる。
「いや…!いや!」
女は足が竦んで動けない。
「来ないで…!」
男の耳に女の叫びは入らない。
怪獣は女を喰い、飲み込んだ。
凪は必死に押し返そうと、神機のバーニアを吹かしていた。
突然、神機に衝撃が走る。
怪獣に薙ぎ払われた。
「つっぅ…!」
コクピットが揺れ、バランスを崩す。
「急に攻撃してきた!?」
凪は急いで、怪獣を止める。
しかし。
さっきより強い衝撃。
「くっ…!」
怪獣が体当たりしてきた。
神機は吹き飛び、ビルに倒れ込む。
凪は痛みに耐えながら、怪獣を見据える。
「何だ?」
怪獣が向きを変えて走っていく。
「ダメ!」
澪が叫ぶ。
怪獣が女性を飲み込んだ。
凪と澪は絶句するしかなかった。




