8話 禊 8-2
凪は湖のほとりに神機を降ろす。
草木が揺れ、湖が波立つ。
そこに静かに神機が降りていく。
神機が跪く。
そして、胸の琥珀のところに手を持っていく。
凪と澪はその手に降りる。
凪と澪を乗せた手をゆっくりと神機が地上に降ろしていく。
凪は地上に降り立つと肺いっぱい深呼吸する。
「気持ちいいところだね。」
澪に和やかに語りかける。
「それに涼しいね。もう夏になるっていうのに。」
初夏。
最近はこの時期でも暑くなる。
だと言うのに、体感涼しい気がしていた。
「御兄様…歓迎してくれてるのかも」
優しく吹く風に、心地よさを感じる。
澪は髪をかき上げ、風を全身で感じるように、そっと目を瞑る。
凪はふと、古墳の方に目を向ける。
「大きいね。」
見上げていくが、全体像が分からない。
「御兄様のお墓…。」
澪もゆっくりと見上げていく。
「ただいま。」
それに応えるように優しい風が吹いた。
豪はヘリに乗っていた。
怪獣が現れてないのに、ロボットが動いた。
そこに何かあると踏んだ上層部は、豪に調査隊の護衛も兼ねて、現地に向かうよう命じた。
怪獣とともに現れるロボット。
何故、怪獣と戦っているのか?
怪獣から現れた人間は?
分からないことだらけだ。
怪獣から現れた女は現在、聴取中だ。
しかし、何も覚えていないらしい。
収穫はゼロである。
あの小さい怪獣にも中に人がいたのだろうか?
様々な思いが頭を巡る。
豪は外を見ながら、思考を巡らせる。
「はあ…。」
無意識に溜息が出る。
次はテストパイロットのことが頭を支配する。
できるのか?
戦えるのか?
どんなものなのか?
神機をトレースできたのか?
思考がパンクしそうになる。
豪は思考を消すように頭を振る。
「なるようになれだ。」
豪はそうやって、生きてきた。
考えても仕方ない。
全力を尽くすだけだ。
それが豪の生き方だ。
唐突にパイロットに呼ばれる。
「なんだ?」
豪は前を見据える。
ロボットが降りたであろう座標は分かっていた。
しかし、そこには
「どこにいる?」
見る限りの森。
そこにはロボットどころか木しかない。
「どうなってる?」
「おかしい。」
豪は眉をひそめる。
座標は間違っていない。
レーダーもこの地点を示している。
なのに何もない。
豪の悩みの種がまた1つ増えた。
澪は古墳に向かって、祈っていた。
凪もそれに続く。
礼儀作法は知らない。
しかし、見様見真似でやってみる。
ゆっくりと顔を上げる澪。
(今まで来れなくて、ごめんなさい。)
優しく風が吹く。
(やっと、心の整理できたよ。)
凪は澪のどこか晴れやかになった顔を横目に見る。
澪の中で折り合いがついたのだろうと感じて、凪の心も温かくなる。
澪がゆっくり手を降ろす。
「来れて良かったね。」
凪は一言だけ澪に言う。
それだけでいい。
顔を見れば分かる。
澪は頷く。
「ありがとう。」
凪は思わず笑みをこぼした。
凪は湖のほとりに腰を降ろす。
「次は神機の修理だね。
どうするの?」
澪は勾玉を胸に祈り始める。
それに呼応するように、神機は湖の中に入っていく。
「お風呂入ってるみたい。」
凪は澪に冗談を言う。
澪は口に手を当てて、軽く笑う。
「ふふ…でも…」
澪は視線を神機に向ける。
神機は湖の中に寝転がる。
「溺れちゃうね。」
凪と澪は笑い合う。
凪は涙を拭きながら、澪に質問する。
「どのくらいかかるの?」
「昔は数時間くらいだったと思う。」
澪は曖昧に答える。
「そっか…よし!」
凪はおもむろに立ち上がり、持ってきていたバックを取り出す。
「何をするの?」
澪は聞き返しながら、バックの中を覗き込む。
「ふっふっふ。」
凪は含みのある笑いをしながら、何かを取り出す。
澪は凪の取り出したものに驚く。
「水着?」
豪は調査隊とヘリを降ろして、周囲を探索していた。
「おかしい…この辺のはずなんだがなぁ…。」
調査隊は皆、首を傾げていた。
「座標は合っているはず。」
再度、計器を確認する。
「合っている…。」
豪は周囲を確認する。
神機の大きさなら、木から越えて見えるはず。
しかし、それらしきものはない。
その上、神機が降り立てるような場所もない。
「どういうことだ…?」
豪は更に混乱する。
「行くしかないか…。」
豪は森の奥へ目を向けた。
凪は水着に着替えて、湖に入ろうとしていた。
「罰当たりだよ…。」
澪は心配そうに答える。
「ダメなの?」
凪は飄々と答える。
今にも飛び込みそうな勢いだ。
「神聖な湖だよ?」
凪を嗜めるように言う。
「そっか…」
凪は納得してみせるが、ウズウズしている。
澪は思い出す。
凪は子供の時から好奇心旺盛だった。
神社の中のものにイタズラして、澪がよく"2人"を叱ったものだ。
その時、澪に水がかかる。
凪がイタズラで澪に水をかける。
「冷た。」
凪はイタズラ顔で笑っている。
「もう…えい!」
澪も水をかけ返す。
「やったな〜!」
凪も負けじと水をかけ返す。
久しぶりに響く笑い声。
その時だった。
「おい、お前一人で何してる?」
伏雷神は町の中で一人の男を観察していた。
「奴がお前のターゲットか?」
黒雷神は暗闇から現れる。
「へへ…そう…。」
伏雷神は目を合わせず、答える。
伏雷神の目にはその男の純粋な悪意しか見えていなかった。
「ほう…。」
黒雷神はその男の悪意に気づく。
「面白い。」
男は電柱の陰に隠れて、一人の女を凝視していた。
女が歩いて行くたび、後をつけていた。
「やつは自分の悪意に気づいておらんな?」
黒雷神が伏雷神に問いかける。
「それが良いんだよ。」
伏雷神は不気味に口角を上げて嗤う。
「純粋な愛…だけど、純粋な悪意。」
伏雷神は種を取り出す。
「今回は神機はどうするかな?」
男は女に震える手を伸ばした。
豪は湖を発見した。
上からは見えなかった。
不思議な力で隠されていたかのようだった。
そんな湖で一人で遊ぶ青年。
水をかける仕草をしているが、誰もいない。
「何をしている…?」
豪は独り言て、その青年を観察する。
山登りにしては軽装すぎる。
乗り物もない。
どこをどう見ても、不思議だ。
「聞いてみるか…。」
豪は青年に近づいていく。
「おい、お前一人で何してる?」
青年は驚いた顔で、豪を見つめる。
見ているが、視線が横に動いた。
豪はそれを見逃さなかった。
「そっちに何かあるのか?」
「いえ!何も!」
青年は慌てた様子で取り繕う。
挙動が怪しい。
豪は青年に更に近づいていく。
水着の青年。
湖に遊びに来たと言えなくもない。
しかし、人の寄り付かないような山奥。
怪しさ満点だ。
豪は無言で周囲を見回した。
凪は澪に視線を向けた。
澪は首を振る。
バレたらマズイということだろう。
凪は思考を巡らせる。
水着で一人で遊んでて、怪しまれているだろう。
こんな山奥で尚更だ。
しかも、後ろには神機。
(ヤバい…。この状況…。)
どう取り繕っても、言い訳できない。
凪が押し黙っていると、軍人が湖によっていく。
(ヤバい…。神機が…。)
「あの!」
凪は軍人を呼びとめる。
「えっと…。あの…。」
しかし、それ以上言葉が出てこない。
その時、軍人の無線から人の声。
「怪獣出現!至急、向かわれたし。」
「了解。」
軍人は急いで、どこかに走っていく。
凪はホッと胸をなで下ろす。
しかし、軍人が振り向く。
「ここで待ってろ!」
そう言うと、軍人は走り去っていく。
凪と澪は顔を見合わせる。
「行こう!」
凪は急いで着替え始めた。




