7話 愛の中の怪獣 7-4
「澪ちゃんどうするの?」
凪は前を見据えて尋ねる。
澪は躊躇いがちに言う。
「二体目の怪獣の時、地下の根が切れたでしょ?」
凪は二体目の怪獣を思い出す。
神機で怪獣を持ち上げ、山に押し込んだ時の話だ。
「ああ…あの時の。」
「あの時、根が切れて…、中の人の怒りが落ち着いたように感じたの。」
凪は澪の言葉を反芻する。
「もしかして、地下から怪獣にエネルギーを与えてる?」
澪はゆっくり頷く。
「そうだと思う。」
「なら…」
言いかけて止める。
小型怪獣が多すぎる。
「あそこまで行って斬るのは…」
凪は言い淀む。
「分からないけど…。
試したいことがある。」
澪は御兄様のことを思い返す。
大穴を封印したあの時、御兄様は大穴を崩していた。
「あの大穴をびぃむ?で攻撃して
多分…」
澪が言うのを待たずに口を挟む。
「岩が落ちて根を潰す?」
澪は頷く。
「うん…。そうすれば、あの怪獣の中の人も落ち着くかも」
「そうすれば、小さいのも生み出さなくなるかも…」
凪は澪に笑いかける。
「よし!やってみよう。」
神機のビーム発射体勢に入らせる。
神機が両腕を前へ向ける。
腹部へ光が集まり始める。
それを見た戦闘機部隊が進路を変えた。
「援護する!」
ミサイルが小型怪獣の群れへ降り注ぐ。
「何する気?」
女は神機が飛び上がったところを見て言う。
自衛隊も協力しているように見える。
「また、寄ってたかってイジメる気?」
女は唾を飛ばしながら、怒る。
そして、小型怪獣に指示を出す。
「あいつよ!あいつを落としなさい!」
小型怪獣は神機を狙って根を伸ばす。
しかし、戦闘機や戦車が悉く、神機への攻撃を対処していく。
「くっ…!
また、あいつだけ…!」
神機の腹に光が収束していく。
女に数日前の苦い光景が頭を過る。
「やめさせなさい!」
小型怪獣に指示を出す。
小型怪獣の攻撃が激化する。
その攻撃に撃墜される戦闘機。
しかし、神機を守るのをやめない。
神機の光が一点に集まる。
「ダメ…!」
神機の光がビームとなって、一直線に自分に向かってくる。
「は…!」
女は思わず、身構える。
爆発。
「えっ…?」
女に痛みはない。
「外した?」
神機のビームは怪獣を通り過ぎ、後方に着弾した。
「アハハ!
外した!
バカが…!くっ…!」
女へのエネルギー供給が止まる。
「えっ…?」
女は後ろを振り向く。
神機のビームは大穴に当たって、側面を崩していた。
それで、できた岩が怪獣の尻尾のようにつながっていた根を押しつぶしていた。
「あいつ…!
うっ…!」
根が潰れた瞬間。
胸の奥を満たしていた熱が消えていく。
怒り。
嫉妬。
憎しみ。
その全てが薄れていった。
「私…何してるんだろう…?」
神機のビーム口から空気が抜ける。
凪の溜めた気力が抜けるように。
怪獣を見る。
「動きが止まった…?」
怪獣は沈黙していた。
根の蠢きも止まっている。
「凪!今よ!」
澪に言われて、ハッとする。
凪は神機のペダルを踏み込み、大型怪獣に近づいていく。
そして、優しく触れる。
女の記憶が澪に流れ込んでくる。
「そっか…。
あなた…認められたかったのね…。」
その時だった。
大型怪獣が神機を攻撃する。
「くっ…!」
凪は咄嗟に回避行動に移る。
澪は叫んでいた。
「それじゃ…ダメ…!」
大型怪獣の攻撃はまるで拒絶しているかのようだった。
女は拒絶していた。
「私に触れるな!私の中に入ってくるな!」
女は攻撃を激化していく。
女は自分の記憶を見られることを恥ずかしがっていた。
女の人生。
女のされたこと。
女のしたこと。
そして。
「あ…。」
(私は全てを拒絶した。
こんな人生だから…諦めてた…。)
先生が二位でも褒めてくれていた。
激励もしてくれていた。
しかし、女への嫉妬から受け入れられない女。
先生は何も言わなくなった。
(男も…)
言い寄られる男。
最初は拒絶していた。
しかし、同級生の女への劣等感から諦める女。
男を拒絶する女。
男が離れていく。
(どうせ…どうせ…どうせ…!)
涙が頬を伝う。
「私は…。」
涙が溢れて止まらない。
「認められないと思ってた…。
だから、拒絶した…。」
澪は語りかける。
「それじゃ…それじゃ、ダメなの!」
凪は神機を動かして、回避行動をとる。
そして、怪獣に取り付くチャンスを伺う。
「怖かったんだよね…。」
怪獣が一瞬怯む。
凪は隙を見逃さず、ゆっくり近づかせていく。
「他人の評価…怖いよね…」
(私も怖かった。
御母様に…御兄様に…凪に…
お前のせいだって言われること…。)
敵意を見せないように剣を収める。
(でも、それは幻想だった。)
大型怪獣に優しく触れる。
そして、澪は自分を解放する。
「大丈夫…。私は傷つけない。」
女は澪の記憶に触れる。
「あなたは受け入れたのね。」
女は手を伸ばしかけ、躊躇する。
「大丈夫。
少しだけ勇気を出して?」
女は無意識に手を伸ばしていた。
パソコンから光が溢れていく。
「出てきた…」
凪は大型怪獣から出てきた女を神機で優しく受け止める。
「凪!」
「うん!」
凪は女を安全なところに降ろす。
凪は一息つく。
そして、剣を抜く。
「断ち切る!」
一閃斬り!
大型怪獣は静かに崩れ去っていった…。
「ありがとう…。」
凪は背中越しに聞こえた礼を、受け入れた。
豪は戦闘機の中で息を呑んでいた。
怪獣の中から現れた女。
それを受け止める神機。
「どういうことだ……?」
怪獣は人間なのか。
あの巨人は何なのか。
豪の脳裏に疑問だけが残った。




