7話 愛の中の怪獣 7-3
凪と澪が呼ぶと、神機は神社まで飛んできた。
外見を見ると、神機の脇腹にまだ貫かれた痕が残っている。
「あ…。」
あの時の光景が頭を過る。
凪は身震いする。
「大丈夫?」
澪が寄り添う。
「いけるよ。」
凪は澪に心配させまいと気丈に振る舞う。
しかし、少し体が震えていた。
凪と澪は神機に乗り込む。
そして、操縦桿を握る。
握る手が震えているのが、分かる。
「怖いのか…?」
凪は独りごちる。
恐怖を振り切ろうとする。
しかし、一筋縄ではいかない。
「凪…。」
澪にも理解できる。
凪は初めて、負けを経験した。
しかも、大怪我をした。
その上、命がけの戦いであることを自覚した。
今まで戦えていた方が不思議なのだ。
凪は深呼吸する。
澪はその姿にチクリと心が痛む。
「……大丈夫。」
凪は自分に言い聞かせるように呟く。
先ほどの決意を思い出す。
(やることをやる!)
凪はペダルを踏み込んだ。
神機は怪獣に向かっていく。
怪獣の中の女はモニター越しに怪獣の視線を見ていた。
「来た…!」
モニター越しに神機が飛んできているのが、見える。
「私から何もかもを奪ったもの!」
女の頭に記憶が蘇る。
(私には勉強しか取り柄がなかった。)
学校の廊下を歩く女。
(お世辞にも、見た目が良い方ではない。
運動もできない。
できることと言ったら、勉強だけ。)
掲示された成績表。
女の順位は2番目。
(私はいつも同級生の女に勝てなかった。)
褒められる同級生の女。
いつもクラスの中心にいる。
美人で勉強もできて、チヤホヤされていた。
(テストでは私の方が点数が良かった日もあった。)
先生が同級生の女を褒めている。
女には何もない。
評価もつけない。
(一言でよかった。
頑張ったなって言ってほしかった。)
先生は見向きもしない。
好きな男の子が通り過ぎていく。
(私を見てほしかっただけなのに。)
同級生の女のところに行く男の子。
楽しく談笑している。
(世の中は不公平だ。)
落書きされている女の机。
ボロボロになった文房具。
(何であいつはチヤホヤされて…、私はこんな仕打ち)
女はモニターを見る。
あの女と神機が重なる。
「何で…。何で…!」
女は手当たり次第にものを投げる。
「あんたも消えちゃえよ!」
女の涙が根へ落ちる。
その感情を吸い上げるように、根が脈動した。
その悪意を糧に小型怪獣が生み出されていく。
神機は町にたどり着く。
町の中は、既に大量の小型怪獣で覆われていた。
「どうにかして、大型の元にいかないと!」
凪が大型怪獣を見据えて、叫ぶ。
しかし。
「小さいのが多すぎる。」
澪が冷静に呟く。
「くっ…!」
凪は頭を回転させる。
(どうする…?)
大型怪獣は動かない。
ただそこにいるだけ。
それなのに。
周囲では次々と小型怪獣が生まれていく。
凪は思案する。
しかし、怪獣は待ってくれない。
小型怪獣が根で神機を攻撃する。
「うぉ!」
咄嗟の声が出る。
凪は回避行動をとり、剣で根を斬り伏せていく。
ビームを使えば、怪獣を一掃できるかもしれない。
しかし、町の避難状況が分からない。
小型怪獣を一体、また一体と斬り伏せていく。
しかし、一向に減らない。
凪は小型怪獣の対処をするしかなかった。
「アハハ!
踊ってる!」
女は無邪気に嗤う。
神機が手も足も出ない様子に悦に浸る。
私はずっと蔑ろにされてきた。
これくらい、許されるはずだ。
再度、女の記憶が蘇っていく。
(私は無難なところに就職していた。)
就職先で働く女。
(無難に生きられれば良かった。)
そこで好みでなないけど、優しい男と出逢う。
(あの人は私に優しかった。
初めて、私を分かってくれた。)
同級生の女が入社してくる。
さらに美人になって、大人の魅力を放っている。
そして、学生時代のことを言いふらす女。
(あの人はそれでも、私を信じてくれた。でも…)
同級生の女に魅了される男。
あることないこと言いふらす女。
(私は…解雇された。何故…?)
引きこもる女。
同級生の女のSNSアカウントを見つける。
そこには、華やかな同級生の女と仲睦まじく写真に写っている男。
(何で!何で!
その幸せは私のもの!)
キーボードを打つ女。
同級生の女の本性を暴露していく。
(同級生の女の人生が壊れていく。)
最初は仕返しのつもりだった。
同級生の女が追い詰められていくのを見ると、 胸が少しだけ軽くなる。
悦に浸る女。
私を蔑ろにした報いだ!
女はモニターに目を移す。
神機が手も足も出ない様子を見ると、口角を上げる。
「アハハ!
アノ女のヨウ!
アナタも壊れチャエ!」
凪は小型怪獣を斬り伏せ対処していた。
「くそっ!
どんだけいるんだ!」
悪態をつきながらも、斬り伏せていく。
「やっぱり、大元を…」
凪は言いかけて止める。
澪の悲しい記憶を呼び覚ましてしまったと思う。
「…大丈夫。」
澪は一息ついて言う。
(今なら分かる)
「私もそう思ってる。」
「でも、どうすれば…」
凪は小型怪獣の群れの対処で考えられなくなってきた。
澪は今までの怪獣のことを思い出す。
一番目の怪獣。
凪のトラウマ。
(あの時、母親は感情に呑まれていた…)
二番目の怪獣。
初めて、助けられた。
(あの人も感情に呑まれていた。
何故、助けられた?
違いは何?)
澪は大型怪獣を観察する。
大型怪獣はなおも小型怪獣を根から生み出している。
自衛隊の攻撃にビクともしていない。
(根…?)
澪は思い返す。
「あの根が怪獣のエネルギー源…?」
「え?」
凪は澪に聞き返す。
澪は再度目を凝らす。
大穴から這い出てきた大型怪獣。
大穴から大型怪獣に繋がっている根。
(あの時…)
二番目の怪獣。
凪が引き離した。
「あの後からあの人の怒りが収まっていってた…。」
澪は閃く。
しかし、確信が持てない。
「でも…もしかしたら…」
一呼吸置く。
「凪…。私を信じてくれる?」
凪は何が何だか分からない。
けれど、澪は信じれる。
「うん!」
凪は神機を飛び上がらせた。




