3-1
実家に戻ったリゼットを待っていたのは、温かい歓迎ではなかった。
「……出戻り、か」
父――セレブリャコフ辺境伯は、執務室の椅子に深く腰掛けたまま、娘を一瞥しただけだった。
「ヴォルコフ公爵家との縁を、お前から切ったのか」
「はい。お父様にはご迷惑を――」
「迷惑で済むと思っているのか」
低い声だった。
「あの婚姻がどれだけこの家にとって重要だったか、分からんお前ではあるまい。公爵家との繋がりがなくなれば、辺境伯の立場も危うくなる」
「……申し訳ございません」
「部屋は使用人棟の空き部屋を使え。客間は来客用だ」
使用人棟。
嫁ぐ前に使っていた自分の部屋は、すでに物置になっているという。
「姉さん、久しぶり」
弟のニコラが廊下で声をかけてきた。だがその目は冷たい。
「父上、相当怒ってるよ。公爵家との繋がりがなくなったら、来年の領地交付金の交渉が不利になるんだって」
「……そう」
「正直、何で我慢できなかったのかなって思うけど。公爵夫人の座にいれば、少なくともこの家には迷惑かからなかったのに」
悪気はないのだろう。弟は事実を述べているだけだ。
それでも、言葉は刺さった。
あの屋敷で三年間耐えたことは、誰の目にも映らない。
ここでも、やはり同じ。
リゼットは使用人棟の小さな部屋に鞄を置き、窓から外を見た。
灰色の空。冷たい風。
セドリックの外套は丁寧に畳んで鞄の底にしまってある。返さなければならない。
でも今は、あの外套の残り香だけが、唯一の温もりだった。




