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三年間名ばかりの妻でしたが、離縁届を置いて出ていきます。――え、隣国の皇太子が私を望んでいる? もう遅いですよ、旦那様  作者: 物語創造者≪イマージェン・クリエイター≫
第2話 「あの方は、なぜ泣いていたのだろう」

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2-3

その夜。


宿屋の小さな部屋で、リゼットはセドリックから借りた外套を畳もうとした。


返しそびれてしまった。明日、宿場町の役人に預ければ届くだろうか。


外套の裏地を確認する。銀糸の刺繍の中に、小さく文字が縫い込まれていた。


『セドリック・ヴェルグリア』


ヴェルグリア。


――ヴェルグリア帝国の、皇族の姓。


リゼットは目を見開いた。


街道で聞いた商人たちの会話が蘇る。


「ヴェルグリアの皇太子殿下が聖女を探している――」


あの人が。


あの、膝をついて手当てをしてくれた人が。


この国にいないはずの、隣国の皇太子。


外套を抱きしめたまま、リゼットの心臓が鳴りやまなかった。



同じ夜。


ヴォルコフ公爵邸。


アンドレイはようやく書斎の机に向かっていた。


フローラとの夕食を終え、上機嫌で戻った彼の目に、一枚の紙が映った。


離縁届。


妻の署名入り。


日付は昨日。


「……は?」


初めて、リゼットが屋敷からいなくなったことを理解した。


だが、アンドレイの口から出たのは動揺でも後悔でもなかった。


「勝手に出ていったのか。まあいい。手間が省けた」


署名欄に、自分の名前を書こうとペンを取る。


――取ったまま、止まった。


視界の端にある帳簿の山。整理されていない陳情書。空になった薬草棚。


今朝から何もかもが滞っている屋敷の、その原因がほんの一瞬だけ頭をよぎり――


「……いや」


振り払う。


「お前がいなくなっても、何も変わらない」


誰もいない書斎で、アンドレイはそう呟いた。


まるで、自分に言い聞かせるように。

第2話 了

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