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三年間名ばかりの妻でしたが、離縁届を置いて出ていきます。――え、隣国の皇太子が私を望んでいる? もう遅いですよ、旦那様  作者: 物語創造者≪イマージェン・クリエイター≫
第2話 「あの方は、なぜ泣いていたのだろう」

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2-2

白銀の馬車の中は温かかった。


向かいの席に座ったセドリックは、供の者に宿場町までの道順を指示すると、リゼットに温かい茶を淹れてくれた。


「馬車に茶器があるなんて」


「長旅なのでね。……どうぞ、遠慮なく」


カップを受け取る。指先から温もりが伝わってきて、張り詰めていた体がほどけた。


「リゼットさんは、どちらへ向かわれているのですか」


「……実家に、戻るところです」


「実家に?」


「はい。少し……いろいろあって」


多くは語りたくなかった。見知らぬ人に、離縁された惨めな事情を話すなど。


セドリックはそれ以上聞かなかった。ただ穏やかにお茶を飲み、窓の外の景色に目をやり、時折リゼットの様子を気にかけた。


「寒くはありませんか」


「あ、はい。おかげさまで」


「膝の痛みは?」


「もう大丈夫です」


「……泣いたのは?」


「…………」


不意打ちだった。


「すみません、立ち入ったことを。ただ」


セドリックの蒼い瞳が、リゼットを映した。


「あなたの涙が、とても長い時間をかけて溜まったもののように見えたので」


心の奥を、覗かれた気がした。


たった数分で。会って間もないこの人に。


「……三年分、かもしれません」


気づいたら口にしていた。


セドリックは黙って聞いていた。


それだけだった。慰めも、同情も、詮索もしない。ただ、聞いていた。


それがどれだけ救いになるか、この人は知っているのだろうか。



宿場町に着くと、セドリックは馬車を降り、リゼットに手を貸した。


「ここで宿を取られるのですか?」


「はい。明日また乗合馬車を探して、実家に向かいます」


「そうですか」


セドリックは少し考え込むような顔をして、それから懐から小さなカードを取り出した。


蒼い隼の紋章が刻まれている。


「もし何かお困りのことがあれば、このカードを見せて私の名前を出してください。大抵の町で通用します」


「そんな……いただけません」


「お守りだと思って。……リゼットさん」


名前を呼ばれると、また胸が震える。


「あなたは、自分が思っているよりもずっと、大切にされるべき方だ」


その言葉を残して、セドリックは白銀の馬車に戻っていった。


蒼い隼の紋章が、秋の夕日に光っていた。


「……大切にされるべき方」


繰り返す。


三年間、一度も言われたことのない言葉。


カードを握りしめたまま、リゼットはしばらくその場に立ち尽くしていた。

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