2-2
白銀の馬車の中は温かかった。
向かいの席に座ったセドリックは、供の者に宿場町までの道順を指示すると、リゼットに温かい茶を淹れてくれた。
「馬車に茶器があるなんて」
「長旅なのでね。……どうぞ、遠慮なく」
カップを受け取る。指先から温もりが伝わってきて、張り詰めていた体がほどけた。
「リゼットさんは、どちらへ向かわれているのですか」
「……実家に、戻るところです」
「実家に?」
「はい。少し……いろいろあって」
多くは語りたくなかった。見知らぬ人に、離縁された惨めな事情を話すなど。
セドリックはそれ以上聞かなかった。ただ穏やかにお茶を飲み、窓の外の景色に目をやり、時折リゼットの様子を気にかけた。
「寒くはありませんか」
「あ、はい。おかげさまで」
「膝の痛みは?」
「もう大丈夫です」
「……泣いたのは?」
「…………」
不意打ちだった。
「すみません、立ち入ったことを。ただ」
セドリックの蒼い瞳が、リゼットを映した。
「あなたの涙が、とても長い時間をかけて溜まったもののように見えたので」
心の奥を、覗かれた気がした。
たった数分で。会って間もないこの人に。
「……三年分、かもしれません」
気づいたら口にしていた。
セドリックは黙って聞いていた。
それだけだった。慰めも、同情も、詮索もしない。ただ、聞いていた。
それがどれだけ救いになるか、この人は知っているのだろうか。
◇
宿場町に着くと、セドリックは馬車を降り、リゼットに手を貸した。
「ここで宿を取られるのですか?」
「はい。明日また乗合馬車を探して、実家に向かいます」
「そうですか」
セドリックは少し考え込むような顔をして、それから懐から小さなカードを取り出した。
蒼い隼の紋章が刻まれている。
「もし何かお困りのことがあれば、このカードを見せて私の名前を出してください。大抵の町で通用します」
「そんな……いただけません」
「お守りだと思って。……リゼットさん」
名前を呼ばれると、また胸が震える。
「あなたは、自分が思っているよりもずっと、大切にされるべき方だ」
その言葉を残して、セドリックは白銀の馬車に戻っていった。
蒼い隼の紋章が、秋の夕日に光っていた。
「……大切にされるべき方」
繰り返す。
三年間、一度も言われたことのない言葉。
カードを握りしめたまま、リゼットはしばらくその場に立ち尽くしていた。




