7-1
翌朝。
目を開けると、隣にセドリックがいた。
当たり前のことのはずなのに、胸がいっぱいになった。
金の髪が枕に散っている。寝顔は、起きている時よりも少しだけ幼く見える。眉間の力が抜けて、皇太子の顔ではなく、ただの青年の顔をしている。
昨夜この人は、「明日の朝、隣にいてください」と言った。
いますよ。ここに。
そっと手を伸ばして、額にかかった髪に触れた。
蒼い瞳が開いた。
「……おはよう」
「おはようございます」
「いた」
「いると言いましたよ」
セドリックが笑った。寝起きの、くしゃっとした笑顔。
こんな顔を見ていいのは、自分だけなのだと思うと、胸の奥がじんと温かくなった。
「朝食、一緒にどうですか」
「……この部屋で?」
「ここで。二人で。焼き菓子も、つけます」
「朝から焼き菓子……」
「皇太子の権限です」
「濫用では」
「あなたのためなら、いくらでも」
呆れるべきなのだろうか。でも笑ってしまう。
この人の隣で迎える朝が、こんなにも明るいものだとは。
三年間の朝は、いつも一人だった。
冷たい寝台。冷たい窓。冷たい廊下の向こうに、自分を見ない夫がいるだけの朝。
もう、あの朝には戻らない。
◇
朝食を終えた頃、侍従が報告に来た。
「殿下。ヴォルコフ公爵が、本日中の面会を求めております」
セドリックの手がカップの上で止まった。
「署名は昨日完了したはずだが」
「はい。離縁届は正式に受理されております。ですが、公爵は別件でリゼット様にお会いしたいと」
「別件?」
「公爵いわく、『最後に一度だけ、直接話がしたい』と」
リゼットは紅茶を置いた。
最後に一度。
セドリックが視線を向けてきた。問いかけの目。決めるのはあなただ、という目。
「……会います」
「リゼット」
「大丈夫です。もう、怖くないから」
昨夜の自分と、三年前の自分は違う。五日前に謁見の間で立った自分とも、もう違う。
「前回は、あなたが後ろにいてくれました」
「今回も同じだ。隣にいる」
「ええ。でも今回は……」
リゼットはセドリックの手に、自分の手を重ねた。
「隣にいてくれるだけで十分。あとは自分で終わらせます」
セドリックはその手を見つめ、そっと指を絡めた。
「……わかりました。あなたを信じます」




