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三年間名ばかりの妻でしたが、離縁届を置いて出ていきます。――え、隣国の皇太子が私を望んでいる? もう遅いですよ、旦那様  作者: 物語創造者≪イマージェン・クリエイター≫
第4話 「私は、あなたに何もしてあげられていない」

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4-1

ヴェルグリア帝国への出発は、三日後と決まった。


その三日間、セドリックはセレブリャコフ辺境伯邸に滞在した。


そしてリゼットは、困惑していた。



初日の朝。


朝食の席に降りると、テーブルの上にリゼットの席だけ花が添えられていた。


白い小花の束。街道沿いに咲く、秋の野花。


「お好きだと伺ったので」


セドリックが何でもないように言った。


「……伺った? 誰にですか?」


「昨日、お屋敷の庭師の方と少し話しまして。リゼットさんが嫁ぐ前、この花をよく摘んでいたと」


庭師のおじいさん。リゼットが子供の頃から可愛がってくれた、数少ない人。


あの人に聞いたのだ。わざわざ。


「……ありがとう、ございます」


声が震えた。


花を貰ったことが嬉しいのではない。


私が何を好きかを、知ろうとしてくれた人がいること。


それが、胸に刺さるほど嬉しかった。


二日目の午後。


セドリックがリゼットを庭園の散歩に誘った。


「聖女の素質についてお話ししたいことがあるのですが、堅苦しい部屋よりも外の方がいいでしょう」


秋の庭を並んで歩く。セドリックは歩幅をリゼットに合わせていた。自然に、意識させないように。


「聖女の力は、感情と結びついています」


セドリックが穏やかに説明する。


「癒したいと願う心が強いほど、力は大きくなる。逆に、自分自身が深く傷ついていると、力が内側に向かって自分を癒そうとするため、外には発現しにくい」


「自分を……癒す?」


「ええ。リゼットさんの力がこれまで小さな発現に留まっていたのは、おそらく――」


セドリックは言葉を選ぶように少し間を置いた。


「あなた自身が、ずっと傷ついていたからです。力の大部分が、あなたの心を守ることに使われていた」


足が止まった。


「三年間、あなたは気づかないうちに自分自身を癒し続けていた。でなければ、あの環境で心が壊れていたはずです」


そんなこと、考えたこともなかった。


自分は鈍いから平気だったのだと思っていた。感受性が乏しいから耐えられたのだと。


違ったのか。


力が、守ってくれていたのか。


「リゼットさん」


セドリックが足を止め、向き合った。


「あなたはこれから、傷つく必要がなくなります。ヴェルグリアでは、聖女は国の宝として遇される。誰もあなたを軽んじることは許されない」


「…………」


「それに」


蒼い瞳が、わずかに和らいだ。


「私が許しません」


短い一言だった。


けれどその声には、社交辞令や外交的配慮とは明らかに違う、生身の感情がにじんでいた。


「セドリック、様……」


「すみません、少し踏み込みすぎましたね」


セドリックは微笑んで視線を庭木に移した。


「花が綺麗だ。この庭園はよく手入れされている」


話題を変える。けれどその横顔の耳がわずかに赤いことに、リゼットは気づいてしまった。


……ああ、この人も、完璧ではないのだ。


その事実が、なぜかとても安心した。

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