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街へ行こう



「魔王様......。これからどうしましょう...。」


ダブラスが不安そうな顔でこちらを覗き込む。


(決まっておろう。勇者を見つけ出し、接吻を行う。)

「よりによって、我らが宿敵の勇者と......。」


なぜ勇者なのだろう。勇者は我達魔王軍の平穏を脅かす者であり、抹殺しなければならない対象だ。その者と愛を育むなど片腹痛い。


(しかし、やらねば我は元の姿に戻れん。やるしかないのだ。)

「魔王様、お姿を元に戻すのを優先したいところではありますが、周りをご覧ください...。」

(ぬぅ?)


周りを見渡し、やっと気づいた。

我らが魔王城が廃墟と化している。


(このままにして旅立つ事は出来んな...。)

「魔王妃様とお嬢様がご帰宅される前になんとかしないとなりませんな。」


ちなみに、魔王の声は周りには「カー」にしか聞こえない。

会話出来てるように聞こえるが、実際は微塵もできていない。


「しようがありません魔王様。お引越し致しましょう。」

(引越しか、そうなると妻と娘と今留守にしているセヴァスとルシエラにも伝えなきゃならんな。)

「とりあえず、広い土地を探しましょう。魔王様、空から探せますか?」

(魔王を顎でつかうとはダブラス。お前も偉くなったもんだな。)

「ありがとうございます。私たちは移動できるよう支度いたします。そこで延びている者達も起こさないといけませんからな。」

(我は同意などしておらんぞ!!)


ダブラスにウインクをされた。

言葉が通じなくても、私どもには手に取るようにあなた様のお考えが分かりますぞ。って顔だ。

おいぼれ家臣のウインクなんぞ誰得だ。


渋々ダブラスに言われた通り、上空へ移動し周りを見渡す。


見渡す限りのなぜか薄紫の荒野。枯れた木が所々に聳え立つ草木の生命を拒絶した大地。

河川あたりに引っ越したかったが、水などこの干上がった大地にその望みは叶いそうにない。


では、どこで食料を調達しているかと言うと、使用人たちが人間に変装し買い出しに行ってるのだ。


(とりあえず、ひらけた場所でなるべく平らな土地にするしかないだろうな。)


現在の城跡から、北東の位置にいい場所を見つけた。ここなら条件に合うし開拓がしやすいだろう。


上空を旋回し、カーカーと鳴いて伝える。


「おぉ、さすが魔王様。もう見つけたらしいですぞ。それと魔王様、あとはお任せください。そのようなお姿では、あとは何も出来ぬ役立たず故、復興は私達にお任せくだされ。」


なにか急に毒を吐かれたような気がするが、確かにできる事はなさそうだ。

ここは従って、勇者探しに向かうのが賢明だろう。


「4人にはこちらから使者を送りますので、安心してくだされ。」



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



メルは途方に暮れていた。

生まれつき身体が弱く、その辺の子供の方が力が強かった。

身体が弱くというのは、病気になりやすいという意味ではない。

身体能力であるステータスの数値が低いのだ。

ステータスが低い為、魔物も倒せずレベルを上げる為の戦闘もできない。


「どうしたら強くなれるんだろう。」


子供の頃は、友達とかけっこで遊んだ時に転び、膝を擦りむいて瀕死に。

弱々しい奴だという事で、いじめっ子が冗談で一発背中を叩くと瀕死に。

食事の際、舌を噛んで瀕死に。

フォークを落として、足に刺さり瀕死に。


殺人犯になりたくないからと、誰も近寄らなくなった。

両親は過保護になり、家に俺を閉じ込めて陽の光を浴びる事は許さなかった。

成長するにつれ、外の世界に行きたいという思いが強くなり、隙を見て家を脱走し、今は村から出て森の中に居る。


ここは、比較的弱い魔物が生息する森で、かけだしの冒険者が最初に特訓する場所である。

通常なら苦戦する事のない魔物しか居ないこの森だが、メルにとってはラストダンジョンに居るような強力な魔獣の巣窟だった。


しかし、幼い頃から少しの負傷が致命傷になるメルはスキル『危険予知』と『魔力探知』を修得している為、魔物に遭遇せず森を抜け出すことは容易であった。


だが____危険予知が警告するのは身の危険が迫った時。魔力探知は、対象が魔力を帯びていないと認識できない。つまり、背後にいる魔力を抑えた殺意のない極彩色のカラスには気づくことはできなかった。


「カーーッ!!」

(見つけたぞ勇者!!)

「わぁぁぁぁあああっ!!!」


(はぁぁ、やっと見つけたぞ。どっからどう見ても勇者の「勇」の字も無いから、見つけ出すのに1ヶ月もかかったじゃないか。)

「......。」

(どうした勇者)ツンツン

「.......。」

(コイツ...気を失っている!!)


メルは背後から急に声をかけられたショックで、白目を剥き、うつ伏せに倒れ、口から泡を吹いていた。



_____15分後



「わぁぁ!すごく綺麗なカラスさん!!」

(え?そうかい?褒めたって何も出ないぞ?)

「どこから来たの?なにか僕に用かい?」


見た目は10代くらいだろうか。

色白で華奢な身体をしている。

まるで、長い間監禁され陽の光を忘れた捕虜のようだ。

ん?まてよ?呪いを解く方法は確か、勇者と愛を育み、接吻をすること...だよな?

勇者って男じゃねぇかぁぁぁぁあああ!!!



(なぁ、あんた本当に勇者か?一生の頼みだ。嘘だと言ってくれ。)

「お腹すいたのかな?あいにく、僕は今食料を持ってないんだ。家から隙を見て逃げ出してきたからね。」

(家から逃げ出した?それってどういう事だ?)

「街に行けば料理店があるよ。まずはそこを目指そうか。」

(目指すって...その身体で、武器も持ってないのにか?)


我は勇者の後をついていった。驚くべきことに、魔物を的確に避け、森の枯葉や枯れ枝を踏む音すら発さない忍足でそそくさと森を抜け出す。


(なんなんだコイツは......。)

「着いたよ。ここで食べよう。」


街について最初に訪れたのは、屋台の並ぶ賑わった通りだった。

雑貨から宝石、貴金属、料理に果物、野菜までなんでも揃っている。


「ここの串焼きを買おう。」


焼かれた肉が5個ほど串に貫かれたそれは、芳ばしい香りを放ちお腹の虫を鳴かせる。


「ヨダレ垂れてるよ。」

(げっ!!魔王とあろうものがはしたない所を晒してしまった!)

「へいっ!おまちぃ!!」


目の前に出されると、いよいよ我慢できそうにない。魔王が人間から施しを受けるなど...とか言ってる場合ではない。威厳などクソ喰らえだ。


「ほら、食べて。」

(良いのか?いただきまーす!)


クチバシから器用に肉を串から外し、そのまま喉奥に放り込む。舌に触れた瞬間に感じた旨みは、早く飲み込めと胃が全力で求めてくる。


(もうひとつ食べていいか?)

「どうぞ。」


目を瞑り幸せを噛み締める。

ふと勇者を見ると、こちらを見て微笑んでいた。


(お前は食べないのか?)

「美味しそうに食べるね。」

(お前の分、買ってないだろ。)


魔王は、翼でメルの串を持ってる手を押した。


(我はもう良いからお前が食べろ。明らかにお前も何も食べていない感じがする。お前が飢え死にすると我の呪いも解けんのだ。)


「食べていいの?ありがとう。」


(お前が買ったものだろう。お礼なんて言わなくて良いんだぞ。)


この調子じゃ、おそらくお金もろくに持ち出していないだろう。早急に稼ぎが必要だ。


(とりあえず、なにか働き口を探そう。)

「まだお腹空いてるのかい?もうお金が無くて買えないんだ。ゴメンよ。」

(もう充分だ。それより早くお金を手に入れないと飢え死にするぞ。そもそも、今夜の宿も無いだろう。)

「ここに来たのは、ご飯の他に目的があって、冒険者ギルドに行こうと思ってるんだ。」

(冒険者ギルド?)

「ここだよ。」


石造りの重々しい作りの建物に着いた。武装したガタイの良い男性から、三角帽子を被った杖を持った人間も居る。男女様々だが、どの奴らも面構えが違う。


「入ろう。」


メルに着いていくと、周りの冒険者の注目を浴びた。


「なにあの貧相な子。」

「パパに弁当届けに来たんじゃねぇか?」

「それより、なにあのカラス。見たことないわ。」


口々にこちらを見た印象を話していく。

それをメルは無視して受付へ進む。


「こんにちは。冒険者になりたいんですけど。」


後ろから噴き出す音が聞こえる。

この冒険者ギルドは、冒険者の休息場でもある。受けた依頼に向かう前、達成した後等に腹を満たし出発するものや、情報交換に勤しむ者もいる。

そのうちの何人かが、メルの言葉を聞いて酒を吹き出した。


ざわめく声を背に、話を進めていく。


「いらっしゃいませ!冒険者ギルドにようこそ!!ギルドライセンスの発行依頼ですね!まずはこちらに手をかざしてください!」


受付嬢が、水晶玉を出してくる。魔王城にある水晶玉とは色が違い、こちらは水色だ。

メルが手をかざすと、文字が浮かび上がる。


「こちらは、手をかざした方の氏名とステータス、スキルが確認できます!」


へぇ、便利な物だ。魔王城にも欲しいな。


メル レベル13

たいりょく 15

こうげき  3

ぼうぎょ  2

ちりょく  16

すばやさ  18

スキル  『危険予知』

     『魔力探知』

     『天上天下唯我独尊』


「?」


受付嬢が笑顔のまま固まっている。

無理もない。我でもこのステータスは、冒険者に向かないと分かる。


「水晶玉の不具合でしょうか?スキルも見たことが無いですし。もう一度やり直しても良いですか?」


その後、何度かやり直したが、いくらやり直しても結果は同じだった。


「誠に申し訳ございません。お客様の冒険者ライセンスは発行できません。」

「え!?なんでですか!?僕がまだ未成年だからですか!?」

「冒険者資格に年齢制限はありません。これは、子供でもそれ相応のステータスがあれば、魔物の討伐が可能だからです。」

(つまり、メルは冒険者になるためにはステータス不足ということだな。)


後ろから笑い声が聞こえる。

メルは俯いていて、周りの声が聞こえているのか分からないが、「分かりました...。」と言い、ギルドを後にした。





ボーイズラブのタグが回収できました。



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