肝脾不和・二七歳女性:患者編・後
肝脾不和:精神的ストレスなどによって肝の働きが乱れ、その影響で脾の働きが低下した状態。イライラや腹痛、便通の乱れといった症状が現れる。
繁忙期は相変わらず、一日の仕事量が多い。今日も始業前に出勤した。ただ、不思議なはりきゅう院で治療を受けて以来、朝の目覚めが良い。
パソコンを開き、メールボックスを確認すると、あの同僚からまた転送メールが届いていた。
「藤川さん、この前の件なんだけど……」
メールを開こうとした時、背後から同僚の声がかかった。すぐに椅子を回す。
「先方からまた追加注文のお願いが来ているの」
この同僚は毎度困った表情で、こちらの様子を窺ってくる。自分で対応しようとして欲しいものだ。以前の自分なら、かなりイライラしていただろう。
(体調が良いからかな。あんまりイライラしない)
心の内で驚きながら、同僚へ優しい笑顔を向ける。
「分かりました。対応しておきますね」
同僚が立ち去ったのを見送り、自分のデスクへ振り返る。
「ふぅ……」
小さく息を吐き、軽く気合いを入れる。
開いていたメールに目を通していくと、追加注文を再度依頼するものだった。ただ、納期は可能な限り早めでお願いしたいと、以前より無茶な要求ではなくなっていた。これなら開発部と交渉の余地がありそうだ。
社内電話を取り、制作部へ連絡を入れる。受話器を握る手に、力が入る。
「追加のご相談なんですが――」
制作部へ注文内容を伝えると、最短の納期を教えてくれた。
「かしこまりました。そちらの日程で可能か確認させていただきます」
受話器を置き、先方への返信メールを作成する。文章にミスがないか確認し、送信した。
(仕事もうまく進んでいる。これも体調が良いからかな)
あの人が言っていたように、余裕があると同じような状況でもストレスと感じにくくなっている。むしろ良い状況になっている気もする。お腹の調子も悪くはなく、張るような痛みは、ほとんど感じなくなっていた。
「また伊吹先生に会いたいな」
そんなことを呟きながら、ポケットに入れている『無病息災』の御守りをそっと握りしめた。




