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イブキの鍼灸院  作者: ヨモギ・シン


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血虚・二三歳女性:患者編・後

血虚けっきょ:血が不足した状態。眩暈めまいや目のかすみ、肌の艶がなくなるなどの症状が現れる。女性では月経異常が現れる。

 練習量と食事量を見直してから、数日が経った。

 鏡に映る顔色は、以前よりも明るい。メイクで隠していたくすみは薄れ、肌にも少し艶が戻ってきた。練習量を減らしたにも関わらず、競技のパフォーマンスは、むしろ上がっている気がする。


矢野(やの)先輩、最近、身体の動きがしなやかですね」


 後輩の一人がそう言った。どうやら、自分の変化は周囲から見ても分かるほどらしい。

 けれど、それ以上に嬉しかったことがある。三ヶ月来ていなかった月経が、戻ってきたのだ。

 身体がきちんと働いていると実感できることは、良い演技ができたときと同じぐらい、いや、それ以上に嬉しかった。


「先輩みたいな動きは、どうしたら出来ますか?」


 いつも一緒に練習している後輩が、少し照れたように尋ねてきた。私の変化に最初に気がついたのも、彼女だった。


「そうね。いっぱい練習するよりも、まずは健康な身体を作ることかな。身体がしっかりしていれば、自然とパフォーマンスもついてくるわ」

「練習よりも、身体ですか?」

「そう。ご飯はちゃんと食べてる?」

「一応、食べていますけど……」

「今日の夕ご飯、一緒に食べましょう。十分な量か、見てあげる」

「いいんですか。ありがとうございます」

「もうすぐ授業が始まる時間ね。いってらっしゃい」


 後輩たちを見送り、ひとり体育館に残った。

 以前なら、そのまま練習を続けていた。けれど今日は、ここで切り上げる。

 自分の練習量が過剰だったと気がついてから、身体について学ぶ時間をつくるようにした。食事量や栄養のこと、女性アスリートの身体の変化について、書籍を読み、少しずつ理解を深めている。


(練習や技術だけじゃなくて、身体のことも伝えられる指導者にならないと)


 私のように、ただひたすら練習量を増やせば強くなれると思っている子は、きっと少なくない。彼らに同じ悩みを抱えてほしくはない。

 杉山(すぎやま)先生は、月経が来ない状態が続くと骨が弱くなると教えてくれた。学ぶほどに、身体の健康が土台だと分かっていく。


(良い指導者になるには、体操以外のことも知らなくちゃいけないわね)


 あそこで施術を受けたことは、自分の中でかなり大きな出来事だった。

 もうあんな不調にはなりたくない。それでも、またあの場所を訪れたいと思う自分がいる。

 伊吹(いぶき)はりきゅう院は、そんな不思議な気持ちにさせる鍼灸院(しんきゅういん)だった。

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